dancept2の日記

あやしうこそものぐるほしけれ

RaceBets.com:ネット時代の馬券販売と「グローバル化」その四

RaceBets.com によるベットの続きにようやく戻る。
もともとドイツの競馬会の財政難の話題からだった。という訳で "Win(単勝)" や "Place(複勝)" など賭けの形式(RaceBets では「タイプ」と表している)についてではなく、GaloppOnline.de や Turf-Times.de のレ―ス記事からリンク設定され、ドイツで事業を開始し、「世界中のレースに賭ける」を標榜する同社が、どのような方式・しくみ(同じく「カテゴリ」と表記)で賭けを提供してるのか、というお話である。


同社「サポートセンター」の「賭けのルール(Betting Rules)」によれば、RaceBets の賭けは「固定オッズ」「ブックメーカー」および「トート」の三つに「カテゴライズ」されている。

1. 固定オッズ・ベッティング(Fixed-Odds Betting)

「賭けのカテゴリ:固定オッズ賭け」Racebets がオッズを設定する、アンティポスト(Ante-post、出走馬掲示前[前売り]、長期前売り)の賭けを含む、(販売/購入時)オッズ固定方式。よく知られる、いわゆる「ブックメーカー方式」ですね。ただし前述のとおり、「ブックメーカー・ベッティング」とは別のカテゴリである。

「選定されたレースのみで(on selected races only)」提供とあるが、これはパリミュチュエル方式の国のレースへの固定オッズ「提供」を念頭に置いての記述だろう。下記は今年の凱旋門賞の「出走表」(同社システムの投票画面)だが、固定オッズ方式も提供されている。「ルール4適用」である。

  • タタソールズ委員会第4規則
    そのリスクを含めて賭けを行なうアンティポストは不出走による返金はないが、ポスト=出走馬掲示(通常レース24時間、最大48時間前)後の固定オッズによるベットでは、出走取消(除外)馬への掛け金は返金される。のだが、「タタソールズ委員会の第4規則」が適用され、的中馬券の配当に出走取消にともなう「控除」が行なわれる。この規則が適用されるレースには「出走表」に「ルール4適用」と表示されるという訳である。

    パリミュチュエル方式に馴染んでるとあまりピンとこなかったりするが、同方式では取消・除外馬への賭けはプールから外され、言わばしくみ上自動「控除」されている訳だ。「ルール4」については下記サイトの記事にも説明があった。4対5(2.25倍)から20対21(約1.95倍)の馬の取消・除外で配当の50%、など取消・除外馬のオッズによる配当からの「控除」率が規定されている。当然、人気馬が取消・除外になれば「控除」も多くなる。

    「第4規則とは? | 第4規則ベッティング控除説明」(ジャストブッキーズ)この規定は「英国のすべてのブックメーカーに適用される」「業界標準の控除」とあるが、RaceBets (「その三」で触れたようにマルタの事業者)は、凱旋門賞に表示があったようにイギリス、アイルランド以外のレースにも適用している。上の記事によれば「一般的なスポーツ」の賭けにもルール4は採用されているとの由。

    ルール4については RaceBets「サポートセンター」にも説明があるが、規則全文(ルール12まである)はタタソールズ委員会ホームページで確認できる。2010年の改訂にともなう解説付きで、ルール4は20 - 22ページ。規則では、控除率は1ポンドあたり何ペンスかで表記されている。

    "Tattersalls Committee Rules on Betting(タタソールズ委員会 賭けに関する規則)"(PDF

    タタソールズ委員会は要するにイギリスのブックメーカーの業界団体で、その役割は、ブックメーカーと購入者の紛争解決のための独立した紛争解決サービスの提供と、ブックメーカーのためのルールの策定である(下記ホームページ)。所轄官庁の賭博委員会(Gambling Commission)により消費者紛争のための裁判外紛争解決手続(所轄官庁および情報)規則(2015年)(Alternative Dispute Resolution for Consumer Disputes (Competent Authorites and Information) Regulations 2015)の提供機関に任命されたとある。

    「場内競馬賭けの紛争を解決するタタソールズ委員会」

    上掲のとおり「場内(on-course)」としている。よくわからないがオンライン賭け提供事業者は所轄が違ったり(?)、これまでの経緯とか色々あるのだろう。「一般的なスポーツ」や、競馬のオンライン事業者や場外の事業者が採用することは自由だが、「業界標準」ルールは場内で決めるのダーといったところ?。前掲規則の前書き(P. 3)に、同委員会の前身(のひとつ)は1795年創設のタターソルズ取引室委員会(Committee of Tattersalls Subscription Rooms)なる機関に遡る、とある。ちなみにジョッキークラブ設立は1750年、タタソールズ社の設立は1766年、英国最古のクラシック、セントレジャー創設が1776年、ウェザビー社によるゼネラルスタッドブック第一巻発行が1791年、リチャード・タタソールが亡くなったのが委員会設立の1795年。「取引室」というのは同社にあったジョッキークラブのメンバーのためにリザーブされていた部屋で、メンバーが寄り合って賭けなどを行なっていたらしい(en:Wikipedia)。この部屋で賭けのルールも検討されていたということなのだろう。

  • ベストオッズ保証(Best Odds Guaranteed)
    この BOG というしくみも今回知った。一部のレースで「出走表」に提示されている。「サポートセンター」には記述が見当たらないのだが、「出走表」の「ベストオッズ保証」にカーソルを当てると表示されるアノテーションに説明がある。日本語版の訳はいまいち分かりにくいが、固定オッズでベットした際には、賭けた倍率か SP(出走最終賭け率)いずれか高い方のオッズで決済するという早割(?)である(といってもアンティポストは適用外だろう)。上掲の凱旋門賞は適用していないが、下記のようにイギリスでも、ロイヤルアスコット開催初日いずれも G1 レースにおいて、セントジェームズパレスステークス(4R)とキングズスタンドステークス(3R)は適用しているが、クイーンアンステークス(1R)には適用していない。

2. ブックメーカー・ベッティング(Bookmaker Betting)

RaceBets 自身のリスクで提供する固定オッズ以外の賭けを指すとある。

「賭けのカテゴリ:ブックメーカー・ベッティング」「日本」のレース( JRA のみの模様)もこのカテゴリで販売。一見するとその名に反し、イギリス、アイルランド等を除く(後述)、各国主催者(ホスト・トラック、Host Track)またはそれに委託された賭け提供事業者が提供する、パリミュチュエル方式のベットである。

  • トート・オペレーター
    これら JRA などのオッズ提供者を「トート・オペレーター」と表しており、他社の(ほんものの?)ブックメーカーの馬券を代行販売したりしない。では後述3項の「トート」カテゴリとは?、となるのだが、冒頭の定義どおりでポイントは下記である。
    ブックメーカー・ベッティングとは、あなたの賭け金からのお金がトートプールに追加されることを意味しません。あなたの賭けは RaceBets で行われ 、どんな配当も当社から直接支払われます。

    オッズは、現地主催者等のトートを使って提示する。RaceBets はオッズ設定を行なわなくても賭けを提供できるのだが、現地オッズよりも RaceBets で販売比率の高い、すなわち人気が集まった馬が勝つと、払い戻しに回す額が予定分より多くなるリスクがある、ということだろう。逆なら現地主催者の予定している控除より多くを RaceBets は手にできる。買う側にとっては関係ないが。

    しかしながら、払い戻しの責任をどこが負うのかは買う側にとって大きな違いである(破綻や払い戻し保証のリスクなど)*1

    すなわち最初は、RaceBets から見ると JRAブックメーカーのひとつと見做されるということ?ともおもったりしたのだがそうではなく、ブックメーカーたる RaceBets が賭けを引き受けてますよ、更に言えば、トート=パリミュチュエルのセパレート・プールで賭け参加者同士がプール金を取り合うのでもなく、ブックメーカーと勝負してるんですよ、ということを明示しているという訳なのだった。

  • SP(出走最終賭け率)
    ブックメーカー・ベッティング」のオッズは、「出走表」上で、"Starting Price betting(発走[時設定]賭け率ベッティング)" より "SP" すなわち「出走最終賭け率」*2 と表示される(上掲凱旋門賞「出馬表」も参照)。

    イギリス、アイルランド等はパリミュチュエル方式によるオッズではなく、文字通りこの SP によるオッズで受け付けている。オッズの設定方法がどうあれ、買う側は、前述1項の購入時オッズ固定と、締切までオッズが変動するベットとが識別できれば良いというところなのだろうが、そもそもパリミュチュエル方式自体が SP 方式のいち形態とカテゴライズできるということだろう。

    で、当方この SP というしくみの賭けが行われていること自体知らなかった。ブックメーカーといえば固定オッズ、との固定観念(ここはひとつスルーいただきたい(笑)、むかーしむかしイギリスでブックメーカーと(ささやかな)「勝負」したりしたのだが、このようなややこしい方式の存在についてはまったく意識もしていない。

    この SP ベッティングについては下記に少し説明があった(「訳注」および「SPRC[Starting Price Regulatory Commission、出走最終賭け率規制委員会]とは何か?」参照)。当時当方が意識していなかったのは、場外の売り場では「勝負」したことが無かったためか。「2006年の制度見直し」「SPRCは2004年に発足」とあるが、それ以前からしくみ自体はあったのだろう。これについても長くなりそうなので(おかげで長年の疑問が少し解けたりはした)、いったんここまでにして先に進む。

  • トート社
    「トート・オペレーター」なる用語が使われているにも関わらずオペレーターには採用されていない英トート社について。イギリスでパリミュチュエル方式の独占権を持つトート社は、2011年に民営化されていた。こちらも「その二」で触れた記事を見るまで知らんかった *3 。売却後「独占的なプール賭事免許」も、2011年3月から7年間が有効で、その間合計6,500万ポンド(約91億円)の商業報酬を競馬界に支払うということである。下記は同社買収の記事(レーシングポスト紙/ジャパン・スタッドブック・インターナショナル:JAIRS)*4で、イギリス、アイルランド等のレースにおけるトート・オペレーターは、イギリスのスポーツ情報サービス社(SIS)、旧サテライト情報サービス社となっている。

(続く)


*1:話がズレる & 当然ながらトート・オペレーターによる各種ルールの違いもある。

*2:競馬用語としては「出走最終賭け率」が一般的(?)なのだろうが、「Starting Price」はオークションの「開始価格」でもあったりで少々混乱があるようだ。オーストラリアの競馬においては、「SP betting」は固定オッズ方式の賭けを意味したりもするらしい(en:Wikipedia)。研究社『新英和辞典』は「(競馬の)出走最終賭け率」、クロスランゲージ『37分野専門語辞書』などでは完全意訳で「最終賭け率」としている模様。JRA も後者を採用。下記 SP 単勝人気の説明に「最終単勝オッズ」とある。しかし、親切と言えば親切なのだが、この「主要国 WEBサイトの歩き方」とかもう JRA 気合入り過ぎ。

*3:下記参照。

*4:その後の状況についての記事(2017年5月8日)。

「54コースの関与で新たなプール賭け運営に弾み | 競馬ニュース | レーシングポスト