dancept2の日記

あやしうこそものぐるほしけれ

RaceBets.com:ネット時代の馬券販売と「グローバル化」その四.一/ Starting Price(出走最終賭け率)についてのことなど

2. ブックメーカー・ベッティング(Bookmaker Betting)(続き)

  • スポーツ情報サービス社(Sports Information Services Ltd.)

    イギリス、アイルランドの「トート・オペレーター」(上掲エントリ「その四」参照)に採用されている。にわか仕込みだが(苦笑)、イギリスの場外ブックメーカーに対して初めて衛星情報サービスの提供を行ない、サイマルキャスト環境実現の嚆矢(?)となった企業である。1986年設立。今年になって略称同じ SIS で、サテライト情報サービス社(Satellite Information Services Ltd.)から社名を変更した。

    映像配信の権利は主催者と契約した配信会社が独占し、主催者(ホスト・トラック)とて RaceBets などのブックメーカーと個別に配信契約は行なわないといったような事情もありそうだが、オッズ提供も含めたパッケージで RaceBets に「サテライト情報」を供給しているということだろう。音声中継から始まった事業は映像配信に発展し、さらには賭けに関する取引プロセスの環境を提供するしくみを構築している。

    SIS トレーディング・サービスは、ロンドン中心部の最先端の本部から、さまざまなスポーツイベントの領域のオッズを集積しています。当社は、完全にアウトソーシングされたトレーディングサービスを提供し、賭けオペレーターに価格と負債管理を提供します。
    ここでは SP のオッズ提供ということで、それなりの控除率への調整などを行ないつつ基本トータリゼーターで計算してるのではないかと想像したりしたのだが、こうした掛け金プールによる<計算>が、トート社の「独占」に抵触するということになるのか。控除率を下げられればトート社は勝負にならないが、そこになんらかの手段でオッズにちょこっと調整を加えて独自「アルゴリズム」とうたってしまえば抵触しない?。SP に限定した説明ではないが SIS は、
    スポーツデータを解釈し、当社の専門的な価格設定チームが高品質でリアルタイムの価格フィードを提供するために、PhD レベルの統計学者の専門チームにより業界をリードするアルゴリズムが開発された。
    としている。

    しかしそもそも SP とは SPRC(出走最終賭け率規制委員会)によるオッズではないのか(「その四」参照)。あるいは「独占権を持つ」トート社からの(孫)ライセンス(?)の可能性も?、とおもったりしたのだが、RaceBets「サポートセンター」の説明に、「賭けの表示がない場合、送金された賭けはトート・オッズで決済されます」とあった。ところがこのあたりの説明、当方の英語力に加え出馬表画面の絵などが無いこともあってよくわからない(苦笑)。原文引用する。

    UK, Ireland and United Arab Emirates

    For fixtures taking place in the UK, Ireland and the United Arab Emirates the Starting Price (SP) represents the odds prevailing on a horse in the on-course fixed-odds betting market at the time a race begins. RaceBets is basing its payouts for these countries on the Starting Prices determined by the Satellite Information Services Ltd. (SIS) in the UK. If no SP is returned settlement of bets will be based on the final betting shows transmitted by SIS. Where no betting shows are transmitted bets will be settled at Tote odds.

    • 1) ギャンブル禁止=ホスト・トラックが「トート・オペレーター」になることはあり得ない、アラブ首長国連邦分も SIS が提供。
      で、最初に SP の一般的な説明。
      イギリス、アイルランドアラブ首長国連邦で行われている出走最終賭け率(SP)は通例、レース開始時の場内固定オッズベッティング市場における、ある馬に対する支配的なオッズを表します。
    • 2) 次に RaceBets におけるこの扱いだが、
      RaceBets は、これらの国のためのその支払いを英国のサテライト情報サービス社(SIS)により決定される出走最終賭け率に基づいて行ないます。
      「通例」である SPRC による「支配的なオッズ」ではなく、SIS により決定される出走最終賭け率で「支払い」が行なわれる、と読めるのだが、支払いを行ないます、ではなく、「基づいて」行ないます、というのも引っ掛かる。というのも次のケースのときが SIS の最終ベッティングによるオッズだと断っているのである。が、これも同じ「 SIS により決定される出走最終賭け率」のことではないのか。
      SP が返されない場合、ベットの決済は、SIS によって送信された最終ベッティングの表示に基づいて行われます。
    • 3)「 SP が返されない場合」というのがどのようなケースで、「出走表」にどう表現されるのかも?なのだが、ベットが締め切られオッズが確定するまで「出馬表」の SP 各馬のオッズ欄が "SP" 表示のままになったりするのか。

      表示はどうあれ(また SPRC のオッズかどうかは別にして)1) の説明どおり、固定オッズの締め切り時最終オッズが SP だとおもっているのだが、SIS は 固定オッズ用と SP 用とで別々のオッズを提供したりしており、SP 用が提供されない(「返されない」)場合には固定オッズ用のオッズが用いられるというようなことを言っている?。上掲 SIS のサイトを改めて確認すると、「すべての主要レースのアンティポスト」「早期賭け率(Early Prices)」「ボード(表示)賭け率(Board Prices)」「出走最終賭け率(Starting Prices)」をカバーしている、として「出走最終賭け率」を明示している(が要するによくわからない(苦笑))。

      または、SPRC のオッズか「返されない」場合に(どうしてそうなるのかは知らないが)SIS による固定オッズの締め切り時最終オッズが適用される?。

      はたまた、SPRC によるオッズでの支払いにおいて、ベットを受け付けだしてから締め切りまでのいわば参考オッズ<表示>が SIS による固定オッズ、この状態のことを「 SP が返されない場合」と称している?(しかしここでオッズの<表示>ではなく「ベットの決済」と説明している)。

      なお「出走表」に SP とは別に表示される固定オッズは、SIS 提供ではなく RaceBets が設定したオッズである筈である(「その四」参照)。

    • 4) さらに SIS が対応していないレースでも、トート社が受け付けているレースであればトート社のオッズで RaceBets が賭けを受け付ける?。
      ベッティングの表示がない場合、ベットはトート・オッズで決済されます。
      このケースが 3) で書いた表示になるような気がするのだが、あるいは「ベッティングの表示がない場合」とは、「出走表」は提示されるが固定オッズも含めてオッズが何も「表示」されないことを言うのか(ただし固定オッズは上記のとおり RaceBets によるオッズ)。

      いずれにせよ賭けは受け付けるのだが、トート社が提供するオッズを見てくれ、ということか。この場合映像も配信されなかったりするのだろう。

    下記はクラックスマン Cracksman (GB) が勝利した今年のチャンピオンステークスの「出走表」と、レーシングポストのレース結果である。後者の SP(この SP は SPRC による公式オッズだろう)のオッズは RaceBets/SIS の SP のオッズ(ユーザー設定によりフラクショナル=分数表示に切替可能である)と全出走馬一致している。やはり 2) は「通例」どおり SPRC オッズなのか。 
  • SPRC(出走最終賭け率規制委員会、Starting Price Regulatory Commission)

    イギリスの名馬物語などにおける人気についての記述も、ブックメーカー名が明記されず単なる「発走時のオッズ」といった記載になっているのが長年疑問だったりしたのだが、この場内の(ざっくり言うと)平均値のことだったのだろう、たぶん。

    というか、「その四」で触れた2009年のレーシングポストの記事を再掲するが、

    SPRCの運営資金はSIS社(Satellite Information Services)とターフTV社(Turf TV)が拠出している。

    とある。RaceBets のいう「 SIS により決定される(determined by the Satellite Information Services Ltd. (SIS))」出走最終賭け率とは、SPRC による SP を SIS が配信しているということなのであろうか?(混乱)。

    と、よくわからないのだが、RaceBets に限らずイギリス、アイルランドにおいて、固定オッズを提供した上でさらに SP による賭けも受け付け、かつそれをシンプルにトート・オッズとしないのには、それなりの理由があるのだろう。後者では「トート・オペレーター」たるトート社の控除率を反映したオッズとなり RaceBets 側に裁量の余地はないのだが、さりとて SPRC による公式 SP で払い戻せば RaceBets 側の意向がオッズに反映できる訳ではないので、こちらもまた裁量の余地はない。要するにトートと SP との比較では(とりあえず固定オッズは置いといて)、SP の方がブックメーカーにも賭け参加者にも好まれている、ということなのだろう。(おそらく現状の英)トートにおける、

    [単複セットのイーチウェイでない]単勝のみのプールに適用されるマージンは、伝統的なブックメーカーが期待する約三倍である。複勝の控除はさらに高くなる。これは SP を押し下げるので、トート価格を取り入れることが、過度のオーバーラウンド *1 を生み出すという SP の批判者の懸念をいかに満足させるか見え難い。

    「協議会 | 出走最終賭け率規制委員会」と、要するにトートの方がブックメーカーは三倍儲かり、配当は押し下げられるとある。とはいえ SP については批判があるようで、2015年のグランドナショナルでの「高オーバーラウンド」が切っ掛けとなり SPRC で「 SP の将来について」の協議が行なわれたようである。上記引用はその際の「代替案」のひとつとしてのトートの説明。

(続く)


*1:Over-round については、下記 "bettingmarket.com" というサイトの記事に説明があった。

「『オーバーラウンドの理解(賭け市場の価格設定メカニズム)』(2015年)」冒頭に五頭立てのレースを例にした説明がある。各馬勝利の可能性は確率的には五分の一、20%である。そこで全馬に5倍のオッズを付け(各馬が平均して売れ)れば、売り上げ/配当 ∝ 5/5 = 1 = 100%、賭けの受け手はトントンである。このような賭けを「ラウンド」ブックという。しかし五頭全部に、四頭立てならトントンとなる4倍のオッズを付ければ、五頭立てにも関わらず各馬に四分の一、25%の勝利確率・リスクを見込んだことになり、五頭合計すると125%で25%の「オーバーラウンド」となる。このとき賭けの受け手は 25% / 125% = 20% で売り上げの20%の利益を期待できる(あるいは、売り上げ/配当 ∝ 5/4 = 1.25 = 125% で25%の「オーバーラウンド」、賭けの受け手側は売り上げの 1-4/5 = 0.2 = 20% の利益を期待できる)。