dancept2の日記

あやしうこそものぐるほしけれ

ルプーのシューベルト:ピアノ・ソナタ第19番ハ短調 D. 958 のライヴ

若いころはシューベルトシューマン、ことにブラームスがニガ手だった。濃厚なロマンチシズムにそれを表現しつくす機能的和声。トリッキーで、ある種破綻のある音楽の方に惹かれたりするんですな(なんというかそれもわかりやすいトリッキーさだったんですが)。

が、年食うと気にならなくなるんですなぁロマンが足りんのか(笑)。秋も深まってまいりますとシューベルトですよ皆さま。ブラームスはどうした?、まぁよいではないですか(笑)。

キズも目立つし弾き飛ばすというとオーバーですが、少々一本調子に聴こえてしまうきらいもあるのか。が、しかししかし「千人にひとりのリリシスト」とはまこと良く言ったもので、むしろこの「単調さ」こそルプーの美点だとおもう次第。一楽章第一主題、初っぱなから指定を無視して、フレーズの終わりを引き伸ばすのも好き。

多くの弾き手が細心の注意を払ってあれこれ考えて音にしているのを、だだだーっと弾いて——我ながらバカっぽい表現だ(笑)、要するに細部に拘泥しない、それにルプーだって考えて弾いてるに決まってるんですが——軽く飛び越えてしまう感がある。前のめりに弾くのとは違う独特の疾走感が生まれるんですな。この魅力は替え難い。正規録音もありますが(こちらはさすがに落ち着いている)、見つからないので来日ライヴで(まぁアレなんですが)。

リヒテルでは重くおどろおどろしく、デモーニッシュな面が強調されます。いろいろ言われたりするが繊細な音色というかタッチの変化も見事。すごい。四楽章の迫力もさすがであります。