dancept2の日記

あやしうこそものぐるほしけれ

CNN のニッポンの競馬レポート:ネット時代の馬券販売と「グローバル化」その三・五

CNN のレポートも YouTube にアップされていた(9分30秒)。タイトルの番号戻って下記「その三・二」の続き。

「日本の信じられない「スーパーファン」- YouTube」(2016年12月)

色眼鏡や上から目線はとくに感じられず、戸惑いはあるだろうが共感が感じられる。2:50 からのシーンには我々も苦笑せざるを得ない(笑)*1 。レポーターを務めるアリー・ヴァンス(Ally Vance)氏は今年もジャパンカップに合わせて来日し栗東の取材なども行っていた模様。CNN スポーツのサイト「競馬ニュース」の「ウイニング・ポスト(Winning Post*2 」コーナーにインスタへの投稿が貼ってあった。栗東のまとまったレポートは今のところ見当たらないが(ボツか(笑))、たのしんでったようで何より。ぬいぐるみの件は別にも報じられていた(苦笑)。1分15秒。映画で大統領役のモーガン・フリーマンが "Good luck to us all" と言ってるシーンを持ってきたりしている。使用許可取るの大変だったんぢゃなかろうか。

「カワイイ! 日本の馬のぬいぐるみ玩具への愛」(2017年1月)

CNN スポーツの「競馬ニュース」には、日本関係がほかにも何回か取り上げられていた *3 。以下はそこから今年12月15日(2分40秒)と、それに関連する一年前のニュース(1分36秒)についての話題。

「日本の競馬への225億ドルの情熱 - CNN」(2016年12月)

(CNN)— 馬、自転車、モーターボート、バイクはすべて、日本において共通するものがひとつある。それらは一般国民が法的に賭けることができる少数のスポーツをなしている。

そして競馬の場合、日本人は確かにそれを最大限活用している。2015年に全国で賭けられた総額は225億ドルだった。 

『グローバルインパクト』(上掲エントリ「その三・二」参照)でインタビューに答えていた合田氏がこちらにも同様の見解をコメント。今年製作の下記には中内田師が登場、やはり合田氏と同様のコメント。

「馬産の巨人として日本はどのように浮上したのか」(2017年12月)

(CNN)— 欧州と北米が支配する業界において、日本は競馬の超大国として浮上している。

伝統は、10,000人あたり50頭のサラブレッドがいる、米国、フランス、アイルランドなどが世界最高級の競走用の駿馬を育てていると示唆している。

しかし、過去10年間で、日本はこうしたトレンドに立ち向かった。この国は2016年に50,000頭弱の競走馬を生産し、日本中央競馬会(JRA)によれば、その年に600万人以上の人々を集めた。

一方、賭博産業も好況で、2015年に日本は225億ドルが賭けられたと見込まれた。

入場者数は、出典としてリンクされている PDF 資料 “JRA & NAR 2016 STATISTICS” によれば *4JRA は 630万662人 、NAR が 320万2,274人 である。「600万人以上」で間違ってはいないが JRA の数字を拾ったのだろう *5 。また賭け金の225億ドルも CNN の昨年のレポートを参照しており2015年になっている。売得金 *6(Turnover)も上記2016年資料に掲載されているのだが、JRA と NRA の統計が別々なので、記者が混乱して(?)使用しなかったのではあるまいか。この225億ドルというのも JRA のみっぽい。2015年の JRA 、NAR の売り上げ(売得金)は、それぞれおおよそ2兆5,833億円、4,310億円、合計3兆143億円 *7 。すごい額ですが *8 、実際にはピークの1997年には JRA だけで4兆超えていた訳で、その後 NAR では多くの競馬場が姿を消した。こうしたややこしい話はこれらのレポートのスコープではないのだろうが、昨年のニュースの方の

10月の凱旋門賞では、ヨーロッパで最も豊かなレースを主催したフランスよりも日本で2倍以上の額の賭けが行なわれた。

ということで改めて日本の巨大市場が注目を集めたということでもあるだろう。こちらの IFHA パリ会議も参照。ただし、このところ売り上げが上昇に転じているのも事実である。例によってすっかり浦島だったが、ことに NAR の復活が著しい。その鍵は、一連のエントリで話題にしている「(ここでは JRA 含む国内での)相互販売とネット発売の強化」のようだ。<ややこしい話>についての日経の記事(2017年8月12日)。地方競馬の廃止について「「現在のような協力関係があったら……」と惜しまれる」とある(2ページ「一時衝突、協力への長い道のり」)。まことに御意。

今でも「丸抱え」した方がこの業界全体の利益にはなるんでしょうけどねぇさらに JRA が巨大化しますが。その場合、ひところのように流行ってないようだが(?)社内カンパニー制、各競馬場を独立して採算をチェックできるしくみが必要になってくるんでしょうな。

というかその上で(あるいは JRA 単独でも)分割民営化して、競争原理を高める必要があるんでしょう最終的には。施行会社、販売会社、さらにそれぞれを地域ごとに分割する等。関西の施行会社は JRA 西日本か(笑)。世界中で行われている形態に近くなる訳だが、これが実際には合田氏や中内田師の指摘を待つまでもなく日本(JRA)ほどうまくは行ってないという。競馬場ごとの民間による完全独立採算制と、JRA のような丸抱えの巨大組織との中間に解があるような気がするのだが、どんなもんなんだろうか。

ところで「相互販売」の「手数料」が、NAR 側が JRA のレースの販売を受託すると売り上げの「5%前後」なのに対し、その逆に JRA が NAR 側のレースの販売を受託すると10%、倍なんですな *9 。記事ではその経緯は不明だが、このしくみの実現にあたって JRA 側がいろいろ負担したりしているのかもしれない。なお、2015年の前者の「発売金」は約766億円、後者が約415億円 *10 と前者が大きく、「手数料」の支払額は倍ほどには違わなくなる計算である。

また、凱旋門賞では JRA はいわば販売受託側なのだが、3%前後しか主催者の PMU には払っていない(下記「その二」参照)。つまり PMU から見た JRA への計算上の「手数料」は(このような計算は成り立たないがざっくりとした値で)、控除率20%プラスアルファ - 3%前後 = 約17% ということになるのだが、「受託」側は自前でトータリゼーターを準備して別々に賭けを受け付け、主催者にはライセンス料を少し払う、という形態である(セパレートプール方式)。上記「その二」にあるように、アメリカ国内でも同じく3%しか主催者側に払わないのはどうなのかという議論があった。これに対する対応として共同プール方式が提案されていた訳で10%でも安いといえば安いのだが、日経の記事が指摘するとおりではある。

で、NAR も、技術的にはこの JRA との「相互販売」網を利用して手っ取り早く海外競馬の馬券をネット発売できるようになってたりするのだろうか( JRA プールの販売)。法律上は NAR も海外のレースを販売可能になっていたとはおもうが、この場合は従来同様の JRA 馬券の受託販売の範疇と言えなくもない。JRA は自前の販売だけでじゅうぶんかもしれないものの、現地の発走日時などに起因するネット以外での販売のハードルは、NAR での方が低いかもしれない。

逆に、現行の法律にどう書かれているのか確認していないが、凱旋門賞など JRA が発売しているレースを、NAR が JRA とは別に販売を行ないたい旨申請しても、この件に関する法律の趣旨からして認められなさそうではある。NAR 所属馬が海外で大量に走るようになっていれば趣旨に合致するが、現実には別プールで異なるオッズが提供されるようなことは許されないんでしょう。

あり得る可能性としては、レースごとに両者の出走馬の比率が高い方がホストになり、少ない方が販売を委託される側にまわるとかそんな感じか(これに関わるインフラも同等になってることが前提になるが)。頭数が同じ場合は…芝なら JRA とか?。上の方の統計もそうだったが、ここでも JRA と NAR のあり方に戻りますね。


*1:『スポーティングポスト』紙(南アフリカの競馬紙らしい)がこのニュースをフォローしており、さらにもう少々突っ込んだ内容になっている。後述のように CNN がざっくりと日本としているのを JRA と表記しているのも正しい(ただし「量より質」で調教師が管理できるのは最大「わずか30頭」というのは現在上限がいくつになっているかは知らないが、トレセンの貸付馬房の上限とは別に管理可能なので、ちょっと違うとおもうが)。

JRA のスーパーファン | スポーティングポスト」

*2:CNN の競馬番組。

*3:2014年にも、その前年の有馬記念など日本を「特集」していた模様(こちらにも合田氏)。社台のヨシダ・ブラザーズ(3分34秒)、パカパカファームのハリー・スウィーニー氏(2分47秒)、有馬記念(3分31秒)の三本。開門ダッシュやぬいぐるみなどもすでに取り上げていた。レポーターは前任者(?)のフランチェスカ・クマーニ(Francesca Cumani)氏。ルカ・クマーニ調教師の娘のようである。

「日本の馬産兄弟 - CNN ビデオ」(2014年1月)

アイルランドの獣医日本の競馬産業に挑む - CNN ビデオ」(2014年1月)

「世界最大の競馬ファン? - CNN ビデオ」(2014年1月)

*4:この資料は JAIRS による海外向けサイト “Horse Racing in Japan” で公開されている。

*5:実際、(「JAIRS の資料によれば」ではなく)「JRA によれば」とはしているのだが。

*6:下記リンク先参照。

*7: JRA は公式サイト「成長推移」ページ「売得金額・入場人数(PDF)」、NAR は同じく「情報公開・個人情報保護」ページ掲載の平成27年度 事業報告書( P. 1 )など。ただし事業年度が JRA は1 - 12月期、NAR は 4 - 3月期。いろいろ数字があり分かりにくいが、前出の “JRA & NAR 2016 STATISTICS” の NAR の値が上記事業報告書や日経の記事の数字と一致しないのはそこらへんか。

*8:なお「レジャー白書2016」によれば、2015年のパチンコ・パチスロは23兆2,290億円(『日遊協 NICHIYOUKYO』16-8号)。

*9:記事は「10%とすると」としているが、2016年の JRA 受託分の「年間売り上げ」は232日591億円とのことで、JRA の平成28事業年度財務諸表 附属明細書( P. 8 )によれば受託料は63億8,706万円なので、約10.8%の計算になる。なお、JRA 平成28事業年度 事業報告書別冊では、「発売金」は232日で約595億円となっている( P. 25 )。記事の数字は「売得金」ということか。「発売金」についてはこちらも 注6 のリンク先参照。

*10:JRA 平成27事業年度 事業報告書別冊による( P. 10 - 11, 13 )。最新の平成28事業年度版では NAR への委託分が確認できなかった。受託分は上記のように595億円。