dancept2の日記

あやしうこそものぐるほしけれ

シュミット=イッセルシュテットの第九(タワーレコード企画の SACD ベートーヴェン交響曲全集から)


TOWER RECORDS: PROC-2072 KING RECORDS: KICC-6025-30
タワーレコード PROC-2072 キングレコード KICC-6025-30

イッセルシュテットタワレコ企画全集、中古盤見つけて思わず入手してしまいました。第五なんかは中学のとき当方が初めて買った同曲の音盤( LP )だったりしたのですが、CD 時代になって LP はすべて手放し、その後全集 CD を入手してもいろいろ個性的な演奏が多いなか、ほとんど再生する機会なかったんですがねぇ。中古とはいえアホですねぇ(呆)。

気になった第九(録音1965年)を聴いてみる——いやな予感。盛大に載ってたような(気がする、後述)ヒスノイズが聴こえない。が、聴き進めるにつれ不安は驚きに変わる。これはすばらしい録音ですねぇ。個々の楽器にぴったりとフォーカスし、それぞれの音色を明快に描き出すいっぽう音像は広く広がり、加えてホールの雰囲気を捉えることにも成功しています。ホルンのベルのビビりまですくい上げ、それが空気を震わせ伝わって来るのが分かるというか。コントラバスがホールと一体になります。四楽章の行進曲風のパートでのジェイムズ・キングのテナー・ソロがしっかり定位しながら豊かなホールトーンを感じさせるところや、女声コーラスの輝かしさもすばらしい。いや男声コーラスもすごい迫力。

いかん。これだけ印象が違うとキング全集の第九のイメージはなにかほかの盤と勘違いしておったのではないかと不安になってくる。前回(上掲)確認しておくんでした。さっそく聴いていみると——んーヒスノイズは気にならないな。勘違いか。しかし、マイクが楽器に近接しているようなかんじは受けませんが音像は手前側に平らに張り付き、楽器の音色も霞んで不明瞭、なにか白っぽいかんじ。ヴァイオリン:かさかさ、バス:ぼんやりに聴こえてしまいますねぇ。楽しくない。タワー盤の奥行は(まともな(?)マスター/マスタリングによる)SACD 化の所為かもしれませんが、キング盤はこの白っぽいかんじがヒスノイズのイメージにつながっていたか。その後のユニバーサルからの再発盤(オリジナルマスターからのリマスターと謳ってるよう)は聴いたことありません。

これは「一新した」といえるのでしょう。当方もなんやかんやと「高音質」盤を入手して(失敗して(苦笑))きたが、これだけ違いを実感したのはフルトヴェングラー/VPO のベト七( EMI )以来かも(?)。

ただし実際には個々の楽器はこんな明快には聴こえないはずでして、DG の一部録音なんかでも顕著ですが、デッカの場合、加えて会場のレゾナンスのそれらしい雰囲気まで備わっているので、逆に嘘っぽさ(?)が目立ってしまうという。デッカの「優秀録音」への批判はそんなこともあったのかなと。

1970年代始めのソフィエンザールでのセッション写真。デッカによるゾフィエンザールでのセッション録音の写真(1970年代初め/バランス・エンジニア:ジョン・ダンカリー)。有名な「デッカ・ツリー」のほかに、いくつかマイクが立っているのが見える *1

また、ことに四楽章ではコーラス/独唱が飽和したりドロップアウトしたりでマスターテープの劣化と思しきところも耳につきます。声楽のひずみはキング盤もけっこうあるので置いといて、ドロップアウトは目立つ部分を双方聴き直してみる——やはりキング盤では確認できません。マスターテープの経年劣化が進んでるってことなんでしょうねぇ。録音から半世紀以上ですか *2

ちなみに確認した場所は上の方で触れたテナー・ソロでして、音質の差が目立ち、実のところ一瞬のドロップアウトなどもんだいになりません。バックの行進曲風のバスドラも、キング盤でも普通に聞こえてますが、こうして比較してしまうと芯がない。

演奏の方は当方などが改めて申すまでもないのでしょうが、弦にアクセントを効かせて独特の推進力を感じさすなど、意外にきびきびとしたキレがあって、こちらもよいです。ことさらフレーズを短く切ったりはしませんが、ここぞというときのフォルテのアタックに瞬発力があり、それもキレにつながっているようです。というかよく聴くとフレーズ内でのこまかい音量のメリハリに気を配っているのが感じられます。

それにやはりウィーン・フィルの響き(明るいですね)がすばらしい。厚みのあるホルンの音色、ヴァイオリン群がずり上がるパートなどたまりません。三楽章後半、金管のファンファーレの少し前にヴァイオリンが音階を駆け上がり続いて上下に刻むパートがありますが、実にチャーミングです。往年のウィーン・フィルサウンド *3 をステレオでという向きには第一にお勧めといってもよろしいのではないかと(ただしキング盤では魅力半減)。ちなみに四楽章コーダ、あれっこんなに速かったっけ、とやや驚きました。

前回感心した第七のディスクは五番とのカップリング。これまた超久々に耳にする五番から通しで聴いた。八番の印象に引っ張られていたのか改めて聴くと意外に男性的。第九と違ってきびきびとした切れというよりゆったりとしたかんじですね。第七をおもえばさも有りなんというところか。後者もすばらしいサウンドに仕上がっていますが、こちらはキングの全集 CD でもじゅうぶん楽しめるとおもいました。

-----

単発でリリースされたデッカ LP のオリジナル・ジャケットをインレイに封入するなど、どこぞのメジャーレーベルの投げやりな再発に比べ、タワレコさんの意欲をかんじさせるものなのでありますが、以下不満を二つばかり(中古なのに偉そうに)述べますと…。

キングの全集のライナーは、おそらく LP 初出時の再録で、セッションの様子などは貴重なものだともいますが、こちらの相も変わらぬ通り一遍のライナーノーツ/楽曲解説はいただけない。マスターテープの状態やマスタリングの機材、様子についてくわしいレポートを載せてくれた方がよほど興味深い *4 。また、むかしと違っていくらでも情報が溢れてるこの時代、楽曲解説を載せなければならないきまりでもあるんでしょうか。オリジナル・ジャケットにこだわったり SACD を購入したりするユーザー層に一般的な楽曲解説など不要でしょう。どうもここらへんはちぐはぐで、タワーはいちどユーザーアンケートでも取ったらどうか。

二番目はプラケースでして、生産のバラツキによる外れ品に当たったのか、すべてそうなのかわかりませんが(そもそも中古品である)、四/五枚目を裏表に収めるトレーケースがすぐ外れてしまって綴じ直すのが非常にうっとうしい。スペースを取らず(五枚組が昔の二枚組の厚み)たいへんありがたいんですが *5

と注文付けてしまいましたが、ここまで聴いたところではデッカの名録音がすばらしい音質で蘇り、まことによろしゅうございました。そういえば当方の CD プレイヤー( DENON の七年もの)、SACD ハイブリッド盤の CD 層を認識しないことが判明した。最後に CD 層を聴いたのはいつだったかおもいだせないのだが(苦笑)、この全集以外のハイブリッド盤も同じなのでディスクのせいではない。SACD 層が聴けないのに比べればショックは小さいですが…そんなんで、CD 層での比較はできませんでした。


*1:こちらの記事より。翻訳しようかともおもうんですが…。

*2:もっとも、キング盤でもすでにドロップアウトがそれなりにあることに上記以外の場所で気づかされます。

*3:「デッカ/ゾフィエンザールの」ウィーン・フィルサウンド?。

*4:年月日場所の録音データはあるがプロデューサーやエンジニアの名前も見当たらない。なおキングの記載を参照したともおもわれる、セッションの様子への言及がライナーノーツにちょっとだけあった。プロデューサー(二人で、ひとりは七番だけですが)についてはこちらで言及。

*5:気をつけてケースを90度(ぐらい)以上開かなければ外れないことに気づきました。