dancept2の日記

あやしうこそものぐるほしけれ

ヴァレンティーナ・リシッツァのバッハ:パルティータ第2番より SME による著作権申し立てのことなど

いろいろ物議を醸している YouTube の Content ID 、

ヴァレンティーナ・リシッツァ(情報に疎い当方、この方についてもよく知らないのだが、2012年にはデッカと契約してるんですな)が、たび重なるクレームに怒りを爆発させ、ブロックされた自身の演奏の該当パートに SME著作権を主張する音声を同期させた(らしい)動画をつくってアップしている(苦笑)。グールドの録音だとの申し立てがあったと。どこが一致なのよ!(2017年2月公開)。

しかし SME 、この動画にこそ著作権を主張できるハズではないか(笑)*1

メールでの問い合わせになしのつぶてなのにも腹を据えかねたらしい。ブロックされた元の動画も指摘部分(1:36 - 2:59)のサウンドをミュートした上で、クリエイターツールの「著作権情報」画面のスクリーンショットまで貼り付けた「版」が再アップされていた *2

しかしいずれにせよ、先ごろようやく申し立てが取り下げられた模様。12月13日に再々(?)アップされていた(全曲版)。「ついに長い戦いの末に」と説明欄に記されている。

このチェックはアップロード処理に組み込まれており、数分のあいだに「数百万曲もの」著作権者による登録曲から照合を行なうというすぐれものなのだが、照合の精度はというとヴァレンティーナもお怒りのようにお粗末と言わざるを得ない *3 。とにかく網を掛けれるしくみは準備しておいて、あとは当事者でやってくれという構えか(広告第一)。というか、このしくみを利用して「著作権詐欺団体」が収益金を巻き上げたりしているということなのだが。YouTube としては、

Content ID の利用は、実際の必要性を評価したうえで承認されます。お申し込みの際は、独占的な権利を管理するコンテンツについて、著作権保有していることを証明できる必要があります。

とうたってはおるのだが。苦情も相当行ってるのではなかろうか(広告ファースト)。また、フリーの音源をつかっていても、それとは無関係な著作権者による公式チャンネルがその音源を利用していたりすると引っ掛かったりもするらしい *4

当方はというと28本しかアップしていないのだが、そのうち9本に申し立てがあった。権利者ではないのでアレだが、こちらの見たところでも、とんちんかんな主張が多い。クレーマー(笑)は下記の11法人。

  • サウンドレコーディング」へのクレーム
    NaxosofAmerica
    The Orchard Music(3本)
    SME(3本)
    UMG
  • 「楽曲」へのクレーム
    APRA_CS
    CASH
    COMPASS_CS
    ICE_CS
    Music Sales (Publishing)(2本)
    UMPG Publishing
    UMPI

プロコフィエフやバーバーの作品に「楽曲」権利を主張するのはもっともなれど(ただし実際に権利者なのかは未確認)、それ以外は?な主張ばかり。なお当方、CD などのコピーは使用しておらず収益化も行っていない。

で、「楽曲」では、上記作曲家の作品に権利を主張してきた Music Sales (Publishing) *5 以外の各法人、ICE_CS を除くと一本の動画へのクレームなのだが、いずれも "SET ME ON FIRE" という曲と45分08秒から50分00秒が「一致」したという主張。しかし当方でアップした楽曲ブラームスなんですけど(苦笑)。

"SET ME ON FIRE" をググってみると、David Amber というアーティストの YouTube 動画がどどーんと先頭に出てくる。同名の曲はほかにもあるようだが取り合えず見に行ってみると、ダンス系(?)の軽快なエレ・ポップ。似てねー(笑)。説明記事に「ライセンス クリエイティブ・コモンズ表示ライセンス(再利用を許可する)」とある。うーむ。

再利用可能な楽曲(のタイトル)を隠れ蓑(?)に、照合結果が「一致」するように細工する手口が可能なのではないかと勘ぐってしまいますね。照合用にいろんな曲を登録しておくとか(これはめちゃ手間だな(笑)。逆に判断アルゴリズムが分かっていれば、どんな曲でも「一致」できるような照合用ワイルドカード曲も作成可能?)。実際には自動照合および一連の手続きが簡易化するということで申し立てに Content ID による照合が必須という訳でもないようではあるが、この程度の PV のチャンネル動画に人手対応するほどヒマではないだろう。ここでは揃いも揃って妙な(?)照合パターンで5社完全一致ですし。

UMPI(Universal Music Publishing International)という会社はロンドンに実在する模様だが *6 、UMPG Publishing というのは UMPG *7 のことなのか。"Universal Music Publishing Group Publishing" になってしまうではないか *8 。また、ICE_CS も、Music Sales (Publishing) が権利を主張する曲に申し立てを行なってきており、複数社が(国別などで)権利を主張すること自体はあり得るのであろうが、はて?。

サウンドレコーディング」の方も、曲は一致しているものの演奏者がいずれも主張する内容と一致しない。ヴァレンティーナのパターンだが、方々でまっとうなユーザから怒りを買っている The Orchard Music *9  も3本。同社についても Wikipedia 英語版に記事があった。なんと2012年から( IODA との合弁により)SME が出資しており、2015年3月には完全子会社化していた。ここでも SME すか。同記事は YouTube ユーザによる「懸念」についても言及している。

で、いずれも「動画に広告が表示されることがあります。」(「著作権者による収益化」)のみ。これまでのところは広告が表示されることもなく(たぶん。PV 次第か)、とくに影響は無かったのだが、ここに来てさいきんアップしたものが SME によりヴァレンティーナ同様244か国でブロック。

SME は国ごとに「収益化」についての YouTube との契約がどうちゃらといった事情もあるやの情報も見かけたが、「収益化」だったのが、ある日とつぜんブロックされたことも1本だがあった。ところがこれは数日で勝手に解除(ただし「収益化」に戻っただけ)。今回もしばらく放置してみていたところなのだが、これを機会に当方も「異議申し立て」なるものを行なってみることにいたしましょう。

ヴァレンティーナに対してもあの態度なのだから SME が主張を取り下げるとも思えず、この手のネタもけっこう目にはするが、結果が出たらまたエントリいたす所存。

ほかの動画で権利者とは無関係の団体に収益が行くのもしゃくなのだが、この程度の PV では大した影響はない(苦笑)。異議申し立て自体は、拒否されてもアカウント/チャンネルのステータスには影響ないようなので *10 、ほかのもそのうちやってみるかも。拒否された際に再審査の申し立ての手続きを取ると、その結果によっては影響が出るらしい。


*1:というかヴァレンティーナはコメント欄で244か国でブロックされた、この動画を観れたら国を教えてほしいと書いていて、その一か月後くらいからかなりの国から見れたよというコメントが書き込まれている。たしかに彼女にしては再生回数が少な目で、ブロックされたのがすでに解除された状態だったか。あるいはブロックは 注2 の動画(ただしこちらは指摘された部分がミュートされている)のことで、今回のように「利用」すれば Content ID に検知されないのかもしれないが、そのような「利用」は意味ないですわなふつう(笑)。(動画が短いということもあるかも)。

*2:こちら(バッハ:パルティータ第2番 BWV826 より「シンフォニア」。同じく2017年2月)。

*3:(追記)下記 3. (11) も参照(検出の際のしきい値の例)。

*4:基本的には Content ID に登録する側が、照合ファイルからフリーの音源を取り除いておかなければならないということなんだろう。いかにも見落としそうだが。

*5:こちらのサイトか。"Music Sales Group - An International Family of Music Publishing Companies"(英語)。Wikipedia 英語版にも記事あり。

*6:Discogs によれば以前の PolyGram International Music Publishing 。

*7:こちらのサイト。

*8:もとよりそう名乗っているが、このグループの出版部門と言っているのか。なお、Universal Production Music という会社もあり、2016年までは UPPM (Universal Publishing Production Music)という社名だった模様。こちらの前身のひとつは Chappell Recorded Music らしい。Chappell Music というのは当方も音盤にクレジットされているのを見かけた記憶がある。所在地は先の UMPI と同じロンドンのフラムブロードウェイ(Fulham Broadway)20番地。

*9:サイトはこちら。

*10:ただし下記の記載はある。

正当な理由なしに異議申し立てをした場合、コンテンツ所有者はお客様の動画の削除を選択する場合もあります。その場合、お客様のアカウントは著作権侵害の警告を受けます。

異議申し立てを受けた著作権者は、次のような対応をすることができます。
  • 申し立てを取りやめる:[…]
  • 元の申し立てを維持する:[…]
  • 動画を削除する: 著作権者は、お客様の動画を YouTube から削除するリクエストを送信できます。削除が決定された場合は、お客様のアカウントに対し著作権侵害の警告が発行されます。