dancept2の日記

あやしうこそものぐるほしけれ

CNN のニッポンの競馬レポート:ネット時代の馬券販売と「グローバル化」その三・五

CNN のレポートも YouTube にアップされていた(9分30秒)。タイトルの番号戻って下記「その三・二」の続き。

「日本の信じられない「スーパーファン」- YouTube」(2016年12月)

色眼鏡や上から目線はとくに感じられず、戸惑いはあるだろうが共感が感じられる。2:50 からのシーンには我々も苦笑せざるを得ない(笑)*1 。レポーターを務めるアリー・ヴァンス(Ally Vance)氏は今年もジャパンカップに合わせて来日し栗東の取材なども行っていた模様。CNN スポーツのサイト「競馬ニュース」の「ウイニング・ポスト(Winning Post*2 」コーナーにインスタへの投稿が貼ってあった。栗東のまとまったレポートは今のところ見当たらないが(ボツか(笑))、たのしんでったようで何より。ぬいぐるみの件は別にも報じられていた(苦笑)。1分15秒。映画で大統領役のモーガン・フリーマンが "Good luck to us all" と言ってるシーンを持ってきたりしている。使用許可取るの大変だったんぢゃなかろうか。

「カワイイ! 日本の馬のぬいぐるみ玩具への愛」(2017年1月)

CNN スポーツの「競馬ニュース」には、日本関係がほかにも何回か取り上げられていた *3 。以下はそこから今年12月15日(2分40秒)と、それに関連する一年前のニュース(1分36秒)についての話題。

「日本の競馬への225億ドルの情熱 - CNN」(2016年12月)

(CNN)— 馬、自転車、モーターボート、バイクはすべて、日本において共通するものがひとつある。それらは一般国民が法的に賭けることができる少数のスポーツをなしている。

そして競馬の場合、日本人は確かにそれを最大限活用している。2015年に全国で賭けられた総額は225億ドルだった。 

『グローバルインパクト』(上掲エントリ「その三・二」参照)でインタビューに答えていた合田氏がこちらにも同様の見解をコメント。今年製作の下記には中内田師が登場、やはり合田氏と同様のコメント。

「馬産の巨人として日本はどのように浮上したのか」(2017年12月)

(CNN)— 欧州と北米が支配する業界において、日本は競馬の超大国として浮上している。

伝統は、10,000人あたり50頭のサラブレッドがいる、米国、フランス、アイルランドなどが世界最高級の競走用の駿馬を育てていると示唆している。

しかし、過去10年間で、日本はこうしたトレンドに立ち向かった。この国は2016年に50,000頭弱の競走馬を生産し、日本中央競馬会(JRA)によれば、その年に600万人以上の人々を集めた。

一方、賭博産業も好況で、2015年に日本は225億ドルが賭けられたと見込まれた。

入場者数は、出典としてリンクされている PDF 資料 “JRA & NAR 2016 STATISTICS” によれば *4JRA は 630万662人 、NAR が 320万2,274人 である。「600万人以上」で間違ってはいないが JRA の数字を拾ったのだろう *5 。また賭け金の225億ドルも CNN の昨年のレポートを参照しており2015年になっている。売得金 *6(Turnover)も上記2016年資料に掲載されているのだが、JRA と NRA の統計が別々なので、記者が混乱して(?)使用しなかったのではあるまいか。この225億ドルというのも JRA のみっぽい。2015年の JRA 、NAR の売り上げ(売得金)は、それぞれおおよそ2兆5,833億円、4,310億円、合計3兆143億円 *7 。すごい額ですが *8 、実際にはピークの1997年には JRA だけで4兆超えていた訳で、その後 NAR では多くの競馬場が姿を消した。こうしたややこしい話はこれらのレポートのスコープではないのだろうが、昨年のニュースの方の

10月の凱旋門賞では、ヨーロッパで最も豊かなレースを主催したフランスよりも日本で2倍以上の額の賭けが行なわれた。

ということで改めて日本の巨大市場が注目を集めたということでもあるだろう。こちらの IFHA パリ会議も参照。ただし、このところ売り上げが上昇に転じているのも事実である。例によってすっかり浦島だったが、ことに NAR の復活が著しい。その鍵は、一連のエントリで話題にしている「(ここでは JRA 含む国内での)相互販売とネット発売の強化」のようだ。<ややこしい話>についての日経の記事(2017年8月12日)。地方競馬の廃止について「「現在のような協力関係があったら……」と惜しまれる」とある(2ページ「一時衝突、協力への長い道のり」)。まことに御意。

今でも「丸抱え」した方がこの業界全体の利益にはなるんでしょうけどねぇさらに JRA が巨大化しますが。その場合、ひところのように流行ってないようだが(?)社内カンパニー制、各競馬場を独立して採算をチェックできるしくみが必要になってくるんでしょうな。

というかその上で(あるいは JRA 単独でも)分割民営化して、競争原理を高める必要があるんでしょう最終的には。施行会社、販売会社、さらにそれぞれを地域ごとに分割する等。関西の施行会社は JRA 西日本か(笑)。世界中で行われている形態に近くなる訳だが、これが実際には合田氏や中内田師の指摘を待つまでもなく日本(JRA)ほどうまくは行ってないという。競馬場ごとの民間による完全独立採算制と、JRA のような丸抱えの巨大組織との中間に解があるような気がするのだが、どんなもんなんだろうか。

ところで「相互販売」の「手数料」が、NAR 側が JRA のレースの販売を受託すると売り上げの「5%前後」なのに対し、その逆に JRA が NAR 側のレースの販売を受託すると10%、倍なんですな *9 。記事ではその経緯は不明だが、このしくみの実現にあたって JRA 側がいろいろ負担したりしているのかもしれない。なお、2015年の前者の「発売金」は約766億円、後者が約415億円 *10 と前者が大きく、「手数料」の支払額は倍ほどには違わなくなる計算である。

また、凱旋門賞では JRA はいわば販売受託側なのだが、3%前後しか主催者の PMU には払っていない(下記「その二」参照)。つまり PMU から見た JRA への計算上の「手数料」は(このような計算は成り立たないがざっくりとした値で)、控除率20%プラスアルファ - 3%前後 = 約17% ということになるのだが、「受託」側は自前でトータリゼーターを準備して別々に賭けを受け付け、主催者にはライセンス料を少し払う、という形態である(セパレートプール方式)。上記「その二」にあるように、アメリカ国内でも同じく3%しか主催者側に払わないのはどうなのかという議論があった。これに対する対応として共同プール方式が提案されていた訳で10%でも安いといえば安いのだが、日経の記事が指摘するとおりではある。

で、NAR も、技術的にはこの JRA との「相互販売」網を利用して手っ取り早く海外競馬の馬券をネット発売できるようになってたりするのだろうか( JRA プールの販売)。法律上は NAR も海外のレースを販売可能になっていたとはおもうが、この場合は従来同様の JRA 馬券の受託販売の範疇と言えなくもない。JRA は自前の販売だけでじゅうぶんかもしれないものの、現地の発走日時などに起因するネット以外での販売のハードルは、NAR での方が低いかもしれない。

逆に、現行の法律にどう書かれているのか確認していないが、凱旋門賞など JRA が発売しているレースを、NAR が JRA とは別に販売を行ないたい旨申請しても、この件に関する法律の趣旨からして認められなさそうではある。NAR 所属馬が海外で大量に走るようになっていれば趣旨に合致するが、現実には別プールで異なるオッズが提供されるようなことは許されないんでしょう。

あり得る可能性としては、レースごとに両者の出走馬の比率が高い方がホストになり、少ない方が販売を委託される側にまわるとかそんな感じか(これに関わるインフラも同等になってることが前提になるが)。頭数が同じ場合は…芝なら JRA とか?。上の方の統計もそうだったが、ここでも JRA と NAR のあり方に戻りますね。


*1:『スポーティングポスト』紙(南アフリカの競馬紙らしい)がこのニュースをフォローしており、さらにもう少々突っ込んだ内容になっている。後述のように CNN がざっくりと日本としているのを JRA と表記しているのも正しい(ただし「量より質」で調教師が管理できるのは最大「わずか30頭」というのは現在上限がいくつになっているかは知らないが、トレセンの貸付馬房の上限とは別に管理可能なので、ちょっと違うとおもうが)。

JRA のスーパーファン | スポーティングポスト」

*2:CNN の競馬番組。

*3:2014年にも、その前年の有馬記念など日本を「特集」していた模様(こちらにも合田氏)。社台のヨシダ・ブラザーズ(3分34秒)、パカパカファームのハリー・スウィーニー氏(2分47秒)、有馬記念(3分31秒)の三本。開門ダッシュやぬいぐるみなどもすでに取り上げていた。レポーターは前任者(?)のフランチェスカ・クマーニ(Francesca Cumani)氏。ルカ・クマーニ調教師の娘のようである。

「日本の馬産兄弟 - CNN ビデオ」(2014年1月)

アイルランドの獣医日本の競馬産業に挑む - CNN ビデオ」(2014年1月)

「世界最大の競馬ファン? - CNN ビデオ」(2014年1月)

*4:この資料は JAIRS による海外向けサイト “Horse Racing in Japan” で公開されている。

*5:実際、(「JAIRS の資料によれば」ではなく)「JRA によれば」とはしているのだが。

*6:下記リンク先参照。

*7: JRA は公式サイト「成長推移」ページ「売得金額・入場人数(PDF)」、NAR は同じく「情報公開・個人情報保護」ページ掲載の平成27年度 事業報告書( P. 1 )など。ただし事業年度が JRA は1 - 12月期、NAR は 4 - 3月期。いろいろ数字があり分かりにくいが、前出の “JRA & NAR 2016 STATISTICS” の NAR の値が上記事業報告書や日経の記事の数字と一致しないのはそこらへんか。

*8:なお「レジャー白書2016」によれば、2015年のパチンコ・パチスロは23兆2,290億円(『日遊協 NICHIYOUKYO』16-8号)。

*9:記事は「10%とすると」としているが、2016年の JRA 受託分の「年間売り上げ」は232日591億円とのことで、JRA の平成28事業年度財務諸表 附属明細書( P. 8 )によれば受託料は63億8,706万円なので、約10.8%の計算になる。なお、JRA 平成28事業年度 事業報告書別冊では、「発売金」は232日で約595億円となっている( P. 25 )。記事の数字は「売得金」ということか。「発売金」についてはこちらも 注6 のリンク先参照。

*10:JRA 平成27事業年度 事業報告書別冊による( P. 10 - 11, 13 )。最新の平成28事業年度版では NAR への委託分が確認できなかった。受託分は上記のように595億円。

ヴァレンティーナ・リシッツァのバッハ:パルティータ第2番より SME による著作権申し立てのことなど

いろいろ物議を醸している YouTube の Content ID 、

ヴァレンティーナ・リシッツァ(情報に疎い当方、この方についてもよく知らないのだが、2012年にはデッカと契約してるんですな)が、たび重なるクレームに怒りを爆発させ、ブロックされた自身の演奏の該当パートに SME著作権を主張する音声を同期させた(らしい)動画をつくってアップしている(苦笑)。グールドの録音だとの申し立てがあったと。どこが一致なのよ!(2017年2月公開)。

しかし SME 、この動画にこそ著作権を主張できるハズではないか(笑)*1

メールでの問い合わせになしのつぶてなのにも腹を据えかねたらしい。ブロックされた元の動画も指摘部分(1:36 - 2:59)のサウンドをミュートした上で、クリエイターツールの「著作権情報」画面のスクリーンショットまで貼り付けた「版」が再アップされていた *2

しかしいずれにせよ、先ごろようやく申し立てが取り下げられた模様。12月13日に再々(?)アップされていた(全曲版)。「ついに長い戦いの末に」と説明欄に記されている。

このチェックはアップロード処理に組み込まれており、数分のあいだに「数百万曲もの」著作権者による登録曲から照合を行なうというすぐれものなのだが、照合の精度はというとヴァレンティーナもお怒りのようにお粗末と言わざるを得ない *3 。とにかく網を掛けれるしくみは準備しておいて、あとは当事者でやってくれという構えか(広告第一)。というか、このしくみを利用して「著作権詐欺団体」が収益金を巻き上げたりしているということなのだが。YouTube としては、

Content ID の利用は、実際の必要性を評価したうえで承認されます。お申し込みの際は、独占的な権利を管理するコンテンツについて、著作権保有していることを証明できる必要があります。

とうたってはおるのだが。苦情も相当行ってるのではなかろうか(広告ファースト)。また、フリーの音源をつかっていても、それとは無関係な著作権者による公式チャンネルがその音源を利用していたりすると引っ掛かったりもするらしい *4

当方はというと28本しかアップしていないのだが、そのうち9本に申し立てがあった。権利者ではないのでアレだが、こちらの見たところでも、とんちんかんな主張が多い。クレーマー(笑)は下記の11法人。

  • サウンドレコーディング」へのクレーム
    NaxosofAmerica
    The Orchard Music(3本)
    SME(3本)
    UMG
  • 「楽曲」へのクレーム
    APRA_CS
    CASH
    COMPASS_CS
    ICE_CS
    Music Sales (Publishing)(2本)
    UMPG Publishing
    UMPI

プロコフィエフやバーバーの作品に「楽曲」権利を主張するのはもっともなれど(ただし実際に権利者なのかは未確認)、それ以外は?な主張ばかり。なお当方、CD などのコピーは使用しておらず収益化も行っていない。

で、「楽曲」では、上記作曲家の作品に権利を主張してきた Music Sales (Publishing) *5 以外の各法人、ICE_CS を除くと一本の動画へのクレームなのだが、いずれも "SET ME ON FIRE" という曲と45分08秒から50分00秒が「一致」したという主張。しかし当方でアップした楽曲ブラームスなんですけど(苦笑)。

"SET ME ON FIRE" をググってみると、David Amber というアーティストの YouTube 動画がどどーんと先頭に出てくる。同名の曲はほかにもあるようだが取り合えず見に行ってみると、ダンス系(?)の軽快なエレ・ポップ。似てねー(笑)。説明記事に「ライセンス クリエイティブ・コモンズ表示ライセンス(再利用を許可する)」とある。うーむ。

再利用可能な楽曲(のタイトル)を隠れ蓑(?)に、照合結果が「一致」するように細工する手口が可能なのではないかと勘ぐってしまいますね。照合用にいろんな曲を登録しておくとか(これはめちゃ手間だな(笑)。逆に判断アルゴリズムが分かっていれば、どんな曲でも「一致」できるような照合用ワイルドカード曲も作成可能?)。実際には自動照合および一連の手続きが簡易化するということで申し立てに Content ID による照合が必須という訳でもないようではあるが、この程度の PV のチャンネル動画に人手対応するほどヒマではないだろう。ここでは揃いも揃って妙な(?)照合パターンで5社完全一致ですし。

UMPI(Universal Music Publishing International)という会社はロンドンに実在する模様だが *6 、UMPG Publishing というのは UMPG *7 のことなのか。"Universal Music Publishing Group Publishing" になってしまうではないか *8 。また、ICE_CS も、Music Sales (Publishing) が権利を主張する曲に申し立てを行なってきており、複数社が(国別などで)権利を主張すること自体はあり得るのであろうが、はて?。

サウンドレコーディング」の方も、曲は一致しているものの演奏者がいずれも主張する内容と一致しない。ヴァレンティーナのパターンだが、方々でまっとうなユーザから怒りを買っている The Orchard Music *9  も3本。同社についても Wikipedia 英語版に記事があった。なんと2012年から( IODA との合弁により)SME が出資しており、2015年3月には完全子会社化していた。ここでも SME すか。同記事は YouTube ユーザによる「懸念」についても言及している。

で、いずれも「動画に広告が表示されることがあります。」(「著作権者による収益化」)のみ。これまでのところは広告が表示されることもなく(たぶん。PV 次第か)、とくに影響は無かったのだが、ここに来てさいきんアップしたものが SME によりヴァレンティーナ同様244か国でブロック。

SME は国ごとに「収益化」についての YouTube との契約がどうちゃらといった事情もあるやの情報も見かけたが、「収益化」だったのが、ある日とつぜんブロックされたことも1本だがあった。ところがこれは数日で勝手に解除(ただし「収益化」に戻っただけ)。今回もしばらく放置してみていたところなのだが、これを機会に当方も「異議申し立て」なるものを行なってみることにいたしましょう。

ヴァレンティーナに対してもあの態度なのだから SME が主張を取り下げるとも思えず、この手のネタもけっこう目にはするが、結果が出たらまたエントリいたす所存。

ほかの動画で権利者とは無関係の団体に収益が行くのもしゃくなのだが、この程度の PV では大した影響はない(苦笑)。異議申し立て自体は、拒否されてもアカウント/チャンネルのステータスには影響ないようなので *10 、ほかのもそのうちやってみるかも。拒否された際に再審査の申し立ての手続きを取ると、その結果によっては影響が出るらしい。


*1:というかヴァレンティーナはコメント欄で244か国でブロックされた、この動画を観れたら国を教えてほしいと書いていて、その一か月後くらいからかなりの国から見れたよというコメントが書き込まれている。たしかに彼女にしては再生回数が少な目で、ブロックされたのがすでに解除された状態だったか。あるいはブロックは 注2 の動画(ただしこちらは指摘された部分がミュートされている)のことで、今回のように「利用」すれば Content ID に検知されないのかもしれないが、そのような「利用」は意味ないですわなふつう(笑)。(動画が短いということもあるかも)。

*2:こちら(バッハ:パルティータ第2番 BWV826 より「シンフォニア」。同じく2017年2月)。

*3:(追記)下記 3. (11) も参照(検出の際のしきい値の例)。

*4:基本的には Content ID に登録する側が、照合ファイルからフリーの音源を取り除いておかなければならないということなんだろう。いかにも見落としそうだが。

*5:こちらのサイトか。"Music Sales Group - An International Family of Music Publishing Companies"(英語)。Wikipedia 英語版にも記事あり。

*6:Discogs によれば以前の PolyGram International Music Publishing 。

*7:こちらのサイト。

*8:もとよりそう名乗っているが、このグループの出版部門と言っているのか。なお、Universal Production Music という会社もあり、2016年までは UPPM (Universal Publishing Production Music)という社名だった模様。こちらの前身のひとつは Chappell Recorded Music らしい。Chappell Music というのは当方も音盤にクレジットされているのを見かけた記憶がある。所在地は先の UMPI と同じロンドンのフラムブロードウェイ(Fulham Broadway)20番地。

*9:サイトはこちら。

*10:ただし下記の記載はある。

正当な理由なしに異議申し立てをした場合、コンテンツ所有者はお客様の動画の削除を選択する場合もあります。その場合、お客様のアカウントは著作権侵害の警告を受けます。

異議申し立てを受けた著作権者は、次のような対応をすることができます。
  • 申し立てを取りやめる:[…]
  • 元の申し立てを維持する:[…]
  • 動画を削除する: 著作権者は、お客様の動画を YouTube から削除するリクエストを送信できます。削除が決定された場合は、お客様のアカウントに対し著作権侵害の警告が発行されます。

 

シェーンベルク指揮 CSO によるマーラー『復活』第二楽章(1934年)

"CSO" とはシカゴ響ではなく、キャデラック交響楽団(Cadillac Symphony Orchestra)である。

盛大なノイズに貧弱な響き、途中記録ディスク交換のためと思しき欠落部分もある。そこから当方勝手にブーレーズのような分析的、あるいはリヒャルト・シュトラウスのような冷静な演奏が立ち上がってくるのを想像したのだが、だいぶ様子が違う。ゆっくりとしたパートなど意外なほどたっぷりと歌わせたウィーン風味(?)の演奏が聴きとれる。

1934年ロサンゼルスとあるが、コメントにあるとおりニューヨークでの演奏らしい。シェーンベルクてロスのイメージだったが、渡米したころはボストンのマルキン音楽院(Malkin Conservatory of Music)で教鞭を取っていたと。キャデラック響とは NBC のラジオ局、ブルーネットワークのオーケストラのことで *1 、当時は放送番組のスポンサー名をオケに冠することがよく行なわれていたとある。

YouTube は七年前のアップだが、2016年にマーク・オバート=ソーン(Mark Obert-Thorn、そちら方面では高名なお方なんですね)の手によるマスタリングでヒストリカル録音の復刻レーベル、プリスティン・クラシカル(Pristine Classical)がリリースしていた模様。カップリングはケンペン指揮ヒルフェルスム放送フィルの4番。下記リンクは同レーベルのホームページのカタログページ。オケの名称の件などこちらの記事でも言及されている。

シェーンベルク、ケンペンのマーラー・レアリティーズ:交響曲第2番&第4番(1934年/50年)- PASC466」(プリスティン・クラシカル)下記は上掲より、ハントリー・デント(Huntley Dent)による『ファンファーレ(Fanfare)』誌40巻1号(2016年9/10月号)のレビューから。

シェーンベルクアメリカに来たばかりであり、彼の恐ろしい評判にもかかわらず、我々は彼を「著名な作曲家」と呼ぶミルトン・クロス(Milton Cross)によるラジオ紹介を耳にする。

恐ろしい評判(笑)。1934年のアメリカでは、本人はおろかマーラーですらまだそれほど受容されていなかっただろう。この絶好の機会(?)に、自作とともにこの曲(の第二楽章)を取り上げた意図はなんだったのか興味深いところですね。

自作というのはメゾ・ソプラノのローズ・バンプトン独唱による『グレの歌』から「山鳩の歌」で、さすがにそれよりあとの曲では「恐ろしい評判」になると局の人間から止められたのか(笑)。『グレの歌』と『復活』であれば収まりはいいですね。下記ウィーンのシェーンベルク・センターのアーカイブでどちらも公開されている。1928年ベルリンでの自身の指揮による『浄められた夜』もあった(オケ不明)。www.schoenberg.at

"The Classical Music Guide Forums" のこちらのアーティクル(2011年8月4日)によれば、もともとシェーンベルク・センターのアーカイブには YouTube のとおり1934年ロサンゼルスとの記載があったようで(音源も同センターのかも)、フォーラムへの投稿者がアーティクルに投稿した情報をセンターにメールしたとあり、現在は1934年4月8日ニューヨークとなっている( "Slipped Disc" のこちらのコメントよれば4月8日放送とあるがセンターでは明記されていない)。

上記コメントのリンク先に、ボストン時代のシェーンベルクに関する地元紙による記事があった。もともとマルキン音楽院に招聘されて渡米したということらしい(1933年)*2 。ボストン響を「すばらしく良い(extraordinarily good)」と褒めるいっぽう、クーセヴィツキーについては「スコアを読むことさえできないほど無知」と書き残しているそうな。北東部の寒さはこたえたようで喘息と気管支炎に苦しみ、1934年秋には気候の良いロスに移ったとある。

シェーンベルクのボストン時代を呼び覚ます - ボストングローブ」


*1:のちに ABC はこの局から独立したらしい。なお、NBC 響の設立はこの三年後1937年。

*2:シェーンベルクアメリカに招聘したチェリストのジョセフ・マルキンについては下記(1910年のシューマントロイメライ」)の説明文に詳しい。

「ダーク・ワズ・ザ・ナイト」

Paris, Texas (1984)

(下記の続き)ヴェンダースといえば音楽ファンにアピールする作品が少なくないが、そこでライ・クーダーでも『パリ・テキサス』の方で。

ナスターシャ・キンスキーさまの存在を知ったのは、フードを被った横顔のあのスチール写真、ロマン・ポランスキー監督『テス』の新聞広告だった。こんな美しいひとがこの世に存在しているのかと、純朴な中学生は呆然としたのだった(笑)。『パリ・テキサス』はその五年後、ジョン・ルーリーと出てきた楽屋の化粧台から振り返るシーンはゾっとするほどの美しさだった。

むかしからロードムービーは大好きで、中学生になると地元の名画座に行くようになった。『スケアクロウ』観に行ったりしたな。当時は名画座なんていうすばらしい空間がまだそこここに残っていた。映画なんて現実逃避というのは痛いところ突かれて不愉快なのだが(笑)、ロードムービーはそれに輪を掛ける訳だ。中二病からいまだ抜け出せないおっさんは、まだ見ぬ旅に想いを馳せるのであつた(遠い目、ならぬアーメン?)。

Paris, Texas (1984)

ライ・クーダーのスライドギターを起用したのはヴェンダースの慧眼だ。すでにこちらの印象が固定してしまっているのだから当然なのだが深いリバーブの掛かったこの音楽以外ちょっと想像できない。サウンドトラック盤収録のハリー・ディーン・スタントンのヴォーカルはべつだん好きでもないけれど、回想の8ミリフィルムのシーン(など)で流れる「カンシオン・ミクステカ(Canción Mixteca)」ももうね、なんともほっこりさせられる(上掲 6:41 - )[追記:削除されたようなのでテーマ曲のみの動画に差し替え]

テーマ曲はブラインド・ウィリー・ジョンソン(1897年 - 1945年)の「ダーク・ワズ・ザ・ナイト(Dark Was The Night, Cold Was The Ground)」をモチーフにしているというのを知ったのはずいぶんと経ってからだった。この本歌(?)のカバーも使用されている(同 31:20 - )。映画ではラストシーンだった。ジョンソンの録音は、1977年にバッハやモーツァルトなんかといっしょに宇宙探査機ボイジャーの「ゴールデンレコード」に収録されて打ち上げられたんですってね。

ライは1970年のデビューアルバムでカバーしていた( "Dark Is The Night" のクレジット。たしかほかでもカバーしているようなことをどこかで読んだ記憶があるが調べがつかなかった)。このアルバムのジャケットもいいですね。アメリカの旅。ヴェンダースはこちらの録音も聴いており、最初から「ダーク・ワズ・ザ・ナイト」を使うことにしてライに音楽を依頼したようだ。

東芝の CM は覚えていなかったがこちらは記憶にある。カッコ良かったね。

RaceBets.com:ネット時代の馬券販売と「グローバル化」その四.二/ジャパンカップの PMU(フランス場外馬券公社)オッズとラウンドオーバー比較

またまた少々寄り道。

「その三.一」で、RaceBets のジャパンカップに関する2015年のツイートに関連して、「 JRA のオッズなので買っても配当的メリット・デメリットはない」と書いたのだが、

今回の「出走表」を確認しに行ったところ、ホストトラックたる JRA を「トート・オペレーター」とした(と推測される)「マーケット」(東京11R分および京都12R分)以外に、PMU(フランス場外馬券公社)による「マーケット」も受け付けていた(こちらは JC のみ)。「サポートセンター」にはこのような記載は無かったのだが(「その四」参照)。

わざわざ別「マーケット」を提示しているということで、お察しのとおりオッズは異なる(!)。凱旋門賞JRA がセパレート・プールで別オッズを付けていたように、PMU も自身のトータリゼーターで JC の賭けを受け付けているのだろう。

で、RaceBets の PMU「マーケット」だが、PMU は日本以外のいくつかの国のレースの「トート・オペレーター」に記載されているので、「ブックメーカー・ベッティング」である可能性の方が高い気はするが、PMU との共同プール、すなわち三番目のカテゴリーである「トート・ベッティング」(後述)の可能性もある。両者のオッズについてはどちらであれ同じだが。

が、それ以前に、「その三.一」では念頭になかったのだが RaceBets は JC の固定オッズによる賭けも受け付けていたのであつた。

下表は肝心のそのオッズの比較。

2017年ジャパンカップにおける RaceBets 提示オッズ比較

 着順・馬名(馬番) JRA PMU 固定
1. Cheval Grand (1) 13.3 1.9 16.4 5.6 13 3.4
2. Rey De Oro (2) 3.8 1.4 5.7 1.1 4 1.6
3. Kitasan Black (4) 2.1 1.2 3.1 1.1 2.3 1.26
4. Makahiki 15.0   18   15 3.8
5. Idaho 101.2   20   51 11
6. Rainbow Line 57.7   108   51 11
7. Soul Starring 9.3   19   11 3
8. Yamakatsu Ace 116.5   253   81 17
9. Guignol 71.8   11   34 7.6
10. Satono Crown 5.7   6.2   5.5 1.9
11. Sciacchetra 48.2   99   41 9
12. Sound Of Earth 102.0   155   101 21
13. Boom Time 322.5   94   151 31
14. Last Impact 270.9   230   201 41
15. Iquitos 122.9   6.4   51 11
16. One And Only 280.1   353   208 41
17. Decipher 445.8   89   201 41
馬単(1-2) 52.5 58.6  
3連単(1-2-4) 133.4 132.3  
馬連(1-2) 17.7 37.1  
3連複(1-2-4) 13 21.6  
ワイド(1-2) 4.6 12.7  
ワイド(1-4) 3.5 11.2  
ワイド(2-4) 2.3 1.7  
ITA(2着を当てる)(2)   2.75  
Trita(3着を当てる)(4)   2.75  
  • PMU の「出走表」上の単勝オッズは、整数値が二桁以上になると小数点以下が切り捨てで表示されている模様。的中分は「結果」欄にも示されるが、こちらのオッズは小数点以下も表示されていたのでシュヴァルグラン単勝 16 倍は 16.4 倍とした(オッズ書式をフラクショナル=分数表示に切り替えても、それぞれ 15対1 、154対10 と表示される)。

  • ザっと見て確認したが「サポートセンター」の記載どおり "JRA" と表記した RaceBets による "SP" は、JRA 発表の確定オッズと一致する。

PMU でもキタサンブラックレイデオロサトノクラウンが人気を集めていたのには変わりないものの、やはり JRA のオッズに比べると明らかに(日本から見た)外国馬が支持を集めているのが良くわかる。したがって PMU の「マーケット」では相対的に日本馬の配当が大きくなる訳である。固定オッズ(の最終確定値)は両者の中間ぐらい。PMU でディサイファにも若干支持が入っているのは昨今のディープインパクト効果?。逆にソウルスターリング(父 Frankel (GB) )については冷静な評価を下していたといったところか。なお、「出走表」の「結果」欄に「オフタイム」(締め切り時刻?、cut off time?)が表示されるが、PMU の方が2分速い。

また PMU は、馬単3連単などに比べて馬連、3連複の配当が大きいのが目立つ。後者の控除率に日仏でかなりの差があるのか。単勝の方は材料もそろっている(し計算もラクな)ので、ラウンドオーバーを比較してみた。計算方法については「その四.一」参照。

2017年ジャパンカップにおける RaceBets 提示
単勝オッズのラウンドオーバー

着順・馬名(馬番) 勝利(的中)確率(リスク)評価
JRA PMU 固定
1. Cheval Grand (1) 7.5% 6.1% 7.7%
2. Rey De Oro (2) 26.3% 17.5% 25.0%
3. Kitasan Black (4) 47.6% 32.3% 43.5%
4. Makahiki 6.7% 5.6% 6.7%
5. Idaho 1.0% 5.0% 2.0%
6. Rainbow Line 1.7% 0.9% 2.0%
7. Soul Starring 10.8% 5.3% 9.1%
8. Yamakatsu Ace 0.9% 0.4% 1.2%
9. Guignol 1.4% 9.1% 2.9%
10. Satono Crown 17.5% 16.1% 18.2%
11. Sciacchetra 2.1% 1.0% 2.4%
12. Sound Of Earth 1.0% 0.6% 1.0%
13. Boom Time 0.3% 1.1% 0.7%
14. Last Impact 0.4% 0.4% 0.5%
15. Iquitos 0.8% 15.6% 2.0%
16. One And Only 0.4% 0.3% 0.5%
17. Decipher 0.2% 1.1% 0.5%
合計 126.5% 118.4% 125.7%
ラウンドオーバー 26.5% 18.4% 25.7%
利益期待値(控除率 21.0% 15.6% 20.5%

JRA 「利益期待値」は、ほぼ単勝控除率(20%)どおりの値を得られた。差異は丸め誤差だろう。固定オッズは JRA と差はない。これらに対して PMU のラウンドオーバー、「利益期待値」すなわち控除率がかなり低いのが分かる。上述のように小数点切り捨ての影響も含んでいるが、ここで気にするほどではないだろう。

これは日本でも JRA はセパレートプールで行なう海外競馬のサイマルキャスト販売では控除率を下げるべきだという指摘、議論があったが、PMU はフランス国内のレースより控除率を低めに設定しているのではなかろうか。このレースの実際の売り上げや、JRA にどの程度ライセンス料を支払っているのかも未確認だが。凱旋門賞JRA は売り上げの3パーセント前後を「手数料」として支払った模様(「その二」参照)。ジャパンカップ凱旋門賞ほどのバリューは無いだろうから、PMU に値切られちゃったりしているかもしれない。また、PMU「マーケット」においても、RaceBets から PMU のみならず JRA にも支払いが発生しているのかといった商流も不明。

(続く)