dancept2の日記

あやしうこそものぐるほしけれ

ヴァレンティーナ・リシッツァのバッハ:パルティータ第2番より SME による著作権申し立てのことなど

いろいろ物議を醸している YouTube の Content ID 、

ヴァレンティーナ・リシッツァ(情報に疎い当方、この方についてもよく知らないのだが、2012年にはデッカと契約してるんですな)が、たび重なるクレームに怒りを爆発させ、ブロックされた自身の演奏の該当パートに SME著作権を主張する音声を同期させた(らしい)動画をつくってアップしている(苦笑)。グールドの録音だとの申し立てがあったと。どこが一致なのよ!(2017年2月公開)。

しかし SME 、この動画にこそ著作権を主張できるハズではないか(笑)*1

メールでの問い合わせになしのつぶてなのにも腹を据えかねたらしい。ブロックされた元の動画も指摘部分(1:36 - 2:59)のサウンドをミュートした上で、クリエイターツールの「著作権情報」画面のスクリーンショットまで貼り付けた「版」が再アップされていた *2

しかしいずれにせよ、先ごろようやく申し立てが取り下げられた模様。12月13日に再々(?)アップされていた(全曲版)。「ついに長い戦いの末に」と説明欄に記されている。

このチェックはアップロード処理に組み込まれており、数分のあいだに「数百万曲もの」著作権者による登録曲から照合を行なうというすぐれものなのだが、照合の精度はというとヴァレンティーナもお怒りのようにお粗末と言わざるを得ない *3 。とにかく網を掛けれるしくみは準備しておいて、あとは当事者でやってくれという構えか(広告第一)。というか、このしくみを利用して「著作権詐欺団体」が収益金を巻き上げたりしているということなのだが。YouTube としては、

Content ID の利用は、実際の必要性を評価したうえで承認されます。お申し込みの際は、独占的な権利を管理するコンテンツについて、著作権保有していることを証明できる必要があります。

とうたってはおるのだが。苦情も相当行ってるのではなかろうか(広告ファースト)。また、フリーの音源をつかっていても、それとは無関係な著作権者による公式チャンネルがその音源を利用していたりすると引っ掛かったりもするらしい *4

当方はというと28本しかアップしていないのだが、そのうち9本に申し立てがあった。権利者ではないのでアレだが、こちらの見たところでも、とんちんかんな主張が多い。クレーマー(笑)は下記の11法人。

  • サウンドレコーディング」へのクレーム
    NaxosofAmerica
    The Orchard Music(3本)
    SME(3本)
    UMG
  • 「楽曲」へのクレーム
    APRA_CS
    CASH
    COMPASS_CS
    ICE_CS
    Music Sales (Publishing)(2本)
    UMPG Publishing
    UMPI

プロコフィエフやバーバーの作品に「楽曲」権利を主張するのはもっともなれど(ただし実際に権利者なのかは未確認)、それ以外は?な主張ばかり。なお当方、CD などのコピーは使用しておらず収益化も行っていない。

で、「楽曲」では、上記作曲家の作品に権利を主張してきた Music Sales (Publishing) *5 以外の各法人、ICE_CS を除くと一本の動画へのクレームなのだが、いずれも "SET ME ON FIRE" という曲と45分08秒から50分00秒が「一致」したという主張。しかし当方でアップした楽曲ブラームスなんですけど(苦笑)。

"SET ME ON FIRE" をググってみると、David Amber というアーティストの YouTube 動画がどどーんと先頭に出てくる。同名の曲はほかにもあるようだが取り合えず見に行ってみると、ダンス系(?)の軽快なエレ・ポップ。似てねー(笑)。説明記事に「ライセンス クリエイティブ・コモンズ表示ライセンス(再利用を許可する)」とある。うーむ。

再利用可能な楽曲(のタイトル)を隠れ蓑(?)に、照合結果が「一致」するように細工する手口が可能なのではないかと勘ぐってしまいますね。照合用にいろんな曲を登録しておくとか(これはめちゃ手間だな(笑)。逆に判断アルゴリズムが分かっていれば、どんな曲でも「一致」できるような照合用ワイルドカード曲も作成可能?)。実際には自動照合および一連の手続きが簡易化するということで申し立てに Content ID による照合が必須という訳でもないようではあるが、この程度の PV のチャンネル動画に人手対応するほどヒマではないだろう。ここでは揃いも揃って妙な(?)照合パターンで5社完全一致ですし。

UMPI(Universal Music Publishing International)という会社はロンドンに実在する模様だが *6 、UMPG Publishing というのは UMPG *7 のことなのか。"Universal Music Publishing Group Publishing" になってしまうではないか *8 。また、ICE_CS も、Music Sales (Publishing) が権利を主張する曲に申し立てを行なってきており、複数社が(国別などで)権利を主張すること自体はあり得るのであろうが、はて?。

サウンドレコーディング」の方も、曲は一致しているものの演奏者がいずれも主張する内容と一致しない。ヴァレンティーナのパターンだが、方々でまっとうなユーザから怒りを買っている The Orchard Music *9  も3本。同社についても Wikipedia 英語版に記事があった。なんと2012年から( IODA との合弁により)SME が出資しており、2015年3月には完全子会社化していた。ここでも SME すか。同記事は YouTube ユーザによる「懸念」についても言及している。

で、いずれも「動画に広告が表示されることがあります。」(「著作権者による収益化」)のみ。これまでのところは広告が表示されることもなく(たぶん。PV 次第か)、とくに影響は無かったのだが、ここに来てさいきんアップしたものが SME によりヴァレンティーナ同様244か国でブロック。

SME は国ごとに「収益化」についての YouTube との契約がどうちゃらといった事情もあるやの情報も見かけたが、「収益化」だったのが、ある日とつぜんブロックされたことも1本だがあった。ところがこれは数日で勝手に解除(ただし「収益化」に戻っただけ)。今回もしばらく放置してみていたところなのだが、これを機会に当方も「異議申し立て」なるものを行なってみることにいたしましょう。

ヴァレンティーナに対してもあの態度なのだから SME が主張を取り下げるとも思えず、この手のネタもけっこう目にはするが、結果が出たらまたエントリいたす所存。

ほかの動画で権利者とは無関係の団体に収益が行くのもしゃくなのだが、この程度の PV では大した影響はない(苦笑)。異議申し立て自体は、拒否されてもアカウント/チャンネルのステータスには影響ないようなので *10 、ほかのもそのうちやってみるかも。拒否された際に再審査の申し立ての手続きを取ると、その結果によっては影響が出るらしい。


*1:というかヴァレンティーナはコメント欄で244か国でブロックされた、この動画を観れたら国を教えてほしいと書いていて、その一か月後くらいからかなりの国から見れたよというコメントが書き込まれている。たしかに彼女にしては再生回数が少な目で、ブロックされたのがすでに解除された状態だったか。あるいはブロックは 注2 の動画(ただしこちらは指摘された部分がミュートされている)のことで、今回のように「利用」すれば Content ID に検知されないのかもしれないが、そのような「利用」は意味ないですわなふつう(笑)。(動画が短いということもあるかも)。

*2:こちら(バッハ:パルティータ第2番 BWV826 より「シンフォニア」。同じく2017年2月)。

*3:(追記)下記 3. (11) も参照(検出の際のしきい値の例)。

*4:基本的には Content ID に登録する側が、照合ファイルからフリーの音源を取り除いておかなければならないということなんだろう。いかにも見落としそうだが。

*5:こちらのサイトか。"Music Sales Group - An International Family of Music Publishing Companies"(英語)。Wikipedia 英語版にも記事あり。

*6:Discogs によれば以前の PolyGram International Music Publishing 。

*7:こちらのサイト。

*8:もとよりそう名乗っているが、このグループの出版部門と言っているのか。なお、Universal Production Music という会社もあり、2016年までは UPPM (Universal Publishing Production Music)という社名だった模様。こちらの前身のひとつは Chappell Recorded Music らしい。Chappell Music というのは当方も音盤にクレジットされているのを見かけた記憶がある。所在地は先の UMPI と同じロンドンのフラムブロードウェイ(Fulham Broadway)20番地。

*9:サイトはこちら。

*10:ただし下記の記載はある。

正当な理由なしに異議申し立てをした場合、コンテンツ所有者はお客様の動画の削除を選択する場合もあります。その場合、お客様のアカウントは著作権侵害の警告を受けます。

異議申し立てを受けた著作権者は、次のような対応をすることができます。
  • 申し立てを取りやめる:[…]
  • 元の申し立てを維持する:[…]
  • 動画を削除する: 著作権者は、お客様の動画を YouTube から削除するリクエストを送信できます。削除が決定された場合は、お客様のアカウントに対し著作権侵害の警告が発行されます。

 

シェーンベルク指揮 CSO によるマーラー『復活』第二楽章(1934年)

"CSO" とはシカゴ響ではなく、キャデラック交響楽団(Cadillac Symphony Orchestra)である。

盛大なノイズに貧弱な響き、途中記録ディスク交換のためと思しき欠落部分もある。そこから当方勝手にブーレーズのような分析的、あるいはリヒャルト・シュトラウスのような冷静な演奏が立ち上がってくるのを想像したのだが、だいぶ様子が違う。ゆっくりとしたパートなど意外なほどたっぷりと歌わせたウィーン風味(?)の演奏が聴きとれる。

1934年ロサンゼルスとあるが、コメントにあるとおりニューヨークでの演奏らしい。シェーンベルクてロスのイメージだったが、渡米したころはボストンのマルキン音楽院(Malkin Conservatory of Music)で教鞭を取っていたと。キャデラック響とは NBC のラジオ局、ブルーネットワークのオーケストラのことで *1 、当時は放送番組のスポンサー名をオケに冠することがよく行なわれていたとある。

YouTube は七年前のアップだが、2016年にマーク・オバート=ソーン(Mark Obert-Thorn、そちら方面では高名なお方なんですね)の手によるマスタリングでヒストリカル録音の復刻レーベル、プリスティン・クラシカル(Pristine Classical)がリリースしていた模様。カップリングはケンペン指揮ヒルフェルスム放送フィルの4番。下記リンクは同レーベルのホームページのカタログページ。オケの名称の件などこちらの記事でも言及されている。

シェーンベルク、ケンペンのマーラー・レアリティーズ:交響曲第2番&第4番(1934年/50年)- PASC466」(プリスティン・クラシカル)下記は上掲より、ハントリー・デント(Huntley Dent)による『ファンファーレ(Fanfare)』誌40巻1号(2016年9/10月号)のレビューから。

シェーンベルクアメリカに来たばかりであり、彼の恐ろしい評判にもかかわらず、我々は彼を「著名な作曲家」と呼ぶミルトン・クロス(Milton Cross)によるラジオ紹介を耳にする。

恐ろしい評判(笑)。1934年のアメリカでは、本人はおろかマーラーですらまだそれほど受容されていなかっただろう。この絶好の機会(?)に、自作とともにこの曲(の第二楽章)を取り上げた意図はなんだったのか興味深いところですね。

自作というのはメゾ・ソプラノのローズ・バンプトン独唱による『グレの歌』から「山鳩の歌」で、さすがにそれよりあとの曲では「恐ろしい評判」になると局の人間から止められたのか(笑)。『グレの歌』と『復活』であれば収まりはいいですね。下記ウィーンのシェーンベルク・センターのアーカイブでどちらも公開されている。1928年ベルリンでの自身の指揮による『浄められた夜』もあった(オケ不明)。www.schoenberg.at

"The Classical Music Guide Forums" のこちらのアーティクル(2011年8月4日)によれば、もともとシェーンベルク・センターのアーカイブには YouTube のとおり1934年ロサンゼルスとの記載があったようで(音源も同センターのかも)、フォーラムへの投稿者がアーティクルに投稿した情報をセンターにメールしたとあり、現在は1934年4月8日ニューヨークとなっている( "Slipped Disc" のこちらのコメントよれば4月8日放送とあるがセンターでは明記されていない)。

上記コメントのリンク先に、ボストン時代のシェーンベルクに関する地元紙による記事があった。もともとマルキン音楽院に招聘されて渡米したということらしい(1933年)*2 。ボストン響を「すばらしく良い(extraordinarily good)」と褒めるいっぽう、クーセヴィツキーについては「スコアを読むことさえできないほど無知」と書き残しているそうな。北東部の寒さはこたえたようで喘息と気管支炎に苦しみ、1934年秋には気候の良いロスに移ったとある。

シェーンベルクのボストン時代を呼び覚ます - ボストングローブ」


*1:のちに ABC はこの局から独立したらしい。なお、NBC 響の設立はこの三年後1937年。

*2:シェーンベルクアメリカに招聘したチェリストのジョセフ・マルキンについては下記(1910年のシューマントロイメライ」)の説明文に詳しい。

「ダーク・ワズ・ザ・ナイト」

Paris, Texas (1984)

(下記の続き)ヴェンダースといえば音楽ファンにアピールする作品が少なくないが、そこでライ・クーダーでも『パリ・テキサス』の方で。

ナスターシャ・キンスキーさまの存在を知ったのは、フードを被った横顔のあのスチール写真、ロマン・ポランスキー監督『テス』の新聞広告だった。こんな美しいひとがこの世に存在しているのかと、純朴な中学生は呆然としたのだった(笑)。『パリ・テキサス』はその五年後、ジョン・ルーリーと出てきた楽屋の化粧台から振り返るシーンはゾっとするほどの美しさだった。

むかしからロードムービーは大好きで、中学生になると地元の名画座に行くようになった。『スケアクロウ』観に行ったりしたな。当時は名画座なんていうすばらしい空間がまだそこここに残っていた。映画なんて現実逃避というのは痛いところ突かれて不愉快なのだが(笑)、ロードムービーはそれに輪を掛ける訳だ。中二病からいまだ抜け出せないおっさんは、まだ見ぬ旅に想いを馳せるのであつた(遠い目、ならぬアーメン?)。

Paris, Texas (1984)

ライ・クーダーのスライドギターを起用したのはヴェンダースの慧眼だ。すでにこちらの印象が固定してしまっているのだから当然なのだが深いリバーブの掛かったこの音楽以外ちょっと想像できない。サウンドトラック盤収録のハリー・ディーン・スタントンのヴォーカルはべつだん好きでもないけれど、回想の8ミリフィルムのシーン(など)で流れる「カンシオン・ミクステカ(Canción Mixteca)」ももうね、なんともほっこりさせられる(上掲 6:41 - )[追記:削除されたようなのでテーマ曲のみの動画に差し替え]

テーマ曲はブラインド・ウィリー・ジョンソン(1897年 - 1945年)の「ダーク・ワズ・ザ・ナイト(Dark Was The Night, Cold Was The Ground)」をモチーフにしているというのを知ったのはずいぶんと経ってからだった。この本歌(?)のカバーも使用されている(同 31:20 - )。映画ではラストシーンだった。ジョンソンの録音は、1977年にバッハやモーツァルトなんかといっしょに宇宙探査機ボイジャーの「ゴールデンレコード」に収録されて打ち上げられたんですってね。

ライは1970年のデビューアルバムでカバーしていた( "Dark Is The Night" のクレジット。たしかほかでもカバーしているようなことをどこかで読んだ記憶があるが調べがつかなかった)。このアルバムのジャケットもいいですね。アメリカの旅。ヴェンダースはこちらの録音も聴いており、最初から「ダーク・ワズ・ザ・ナイト」を使うことにしてライに音楽を依頼したようだ。

東芝の CM は覚えていなかったがこちらは記憶にある。カッコ良かったね。

RaceBets.com:ネット時代の馬券販売と「グローバル化」その四.二/ジャパンカップの PMU(フランス場外馬券公社)オッズとラウンドオーバー比較

またまた少々寄り道。

「その三.一」で、RaceBets のジャパンカップに関する2015年のツイートに関連して、「 JRA のオッズなので買っても配当的メリット・デメリットはない」と書いたのだが、

今回の「出走表」を確認しに行ったところ、ホストトラックたる JRA を「トート・オペレーター」とした(と推測される)「マーケット」(東京11R分および京都12R分)以外に、PMU(フランス場外馬券公社)による「マーケット」も受け付けていた(こちらは JC のみ)。「サポートセンター」にはこのような記載は無かったのだが(「その四」参照)。

わざわざ別「マーケット」を提示しているということで、お察しのとおりオッズは異なる(!)。凱旋門賞JRA がセパレート・プールで別オッズを付けていたように、PMU も自身のトータリゼーターで JC の賭けを受け付けているのだろう。

で、RaceBets の PMU「マーケット」だが、PMU は日本以外のいくつかの国のレースの「トート・オペレーター」に記載されているので、「ブックメーカー・ベッティング」である可能性の方が高い気はするが、PMU との共同プール、すなわち三番目のカテゴリーである「トート・ベッティング」(後述)の可能性もある。両者のオッズについてはどちらであれ同じだが。

が、それ以前に、「その三.一」では念頭になかったのだが RaceBets は JC の固定オッズによる賭けも受け付けていたのであつた。

下表は肝心のそのオッズの比較。

2017年ジャパンカップにおける RaceBets 提示オッズ比較

 着順・馬名(馬番) JRA PMU 固定
1. Cheval Grand (1) 13.3 1.9 16.4 5.6 13 3.4
2. Rey De Oro (2) 3.8 1.4 5.7 1.1 4 1.6
3. Kitasan Black (4) 2.1 1.2 3.1 1.1 2.3 1.26
4. Makahiki 15.0   18   15 3.8
5. Idaho 101.2   20   51 11
6. Rainbow Line 57.7   108   51 11
7. Soul Starring 9.3   19   11 3
8. Yamakatsu Ace 116.5   253   81 17
9. Guignol 71.8   11   34 7.6
10. Satono Crown 5.7   6.2   5.5 1.9
11. Sciacchetra 48.2   99   41 9
12. Sound Of Earth 102.0   155   101 21
13. Boom Time 322.5   94   151 31
14. Last Impact 270.9   230   201 41
15. Iquitos 122.9   6.4   51 11
16. One And Only 280.1   353   208 41
17. Decipher 445.8   89   201 41
馬単(1-2) 52.5 58.6  
3連単(1-2-4) 133.4 132.3  
馬連(1-2) 17.7 37.1  
3連複(1-2-4) 13 21.6  
ワイド(1-2) 4.6 12.7  
ワイド(1-4) 3.5 11.2  
ワイド(2-4) 2.3 1.7  
ITA(2着を当てる)(2)   2.75  
Trita(3着を当てる)(4)   2.75  
  • PMU の「出走表」上の単勝オッズは、整数値が二桁以上になると小数点以下が切り捨てで表示されている模様。的中分は「結果」欄にも示されるが、こちらのオッズは小数点以下も表示されていたのでシュヴァルグラン単勝 16 倍は 16.4 倍とした(オッズ書式をフラクショナル=分数表示に切り替えても、それぞれ 15対1 、154対10 と表示される)。

  • ザっと見て確認したが「サポートセンター」の記載どおり "JRA" と表記した RaceBets による "SP" は、JRA 発表の確定オッズと一致する。

PMU でもキタサンブラックレイデオロサトノクラウンが人気を集めていたのには変わりないものの、やはり JRA のオッズに比べると明らかに(日本から見た)外国馬が支持を集めているのが良くわかる。したがって PMU の「マーケット」では相対的に日本馬の配当が大きくなる訳である。固定オッズ(の最終確定値)は両者の中間ぐらい。PMU でディサイファにも若干支持が入っているのは昨今のディープインパクト効果?。逆にソウルスターリング(父 Frankel (GB) )については冷静な評価を下していたといったところか。なお、「出走表」の「結果」欄に「オフタイム」(締め切り時刻?、cut off time?)が表示されるが、PMU の方が2分速い。

また PMU は、馬単3連単などに比べて馬連、3連複の配当が大きいのが目立つ。後者の控除率に日仏でかなりの差があるのか。単勝の方は材料もそろっている(し計算もラクな)ので、ラウンドオーバーを比較してみた。計算方法については「その四.一」参照。

2017年ジャパンカップにおける RaceBets 提示
単勝オッズのラウンドオーバー

着順・馬名(馬番) 勝利(的中)確率(リスク)評価
JRA PMU 固定
1. Cheval Grand (1) 7.5% 6.1% 7.7%
2. Rey De Oro (2) 26.3% 17.5% 25.0%
3. Kitasan Black (4) 47.6% 32.3% 43.5%
4. Makahiki 6.7% 5.6% 6.7%
5. Idaho 1.0% 5.0% 2.0%
6. Rainbow Line 1.7% 0.9% 2.0%
7. Soul Starring 10.8% 5.3% 9.1%
8. Yamakatsu Ace 0.9% 0.4% 1.2%
9. Guignol 1.4% 9.1% 2.9%
10. Satono Crown 17.5% 16.1% 18.2%
11. Sciacchetra 2.1% 1.0% 2.4%
12. Sound Of Earth 1.0% 0.6% 1.0%
13. Boom Time 0.3% 1.1% 0.7%
14. Last Impact 0.4% 0.4% 0.5%
15. Iquitos 0.8% 15.6% 2.0%
16. One And Only 0.4% 0.3% 0.5%
17. Decipher 0.2% 1.1% 0.5%
合計 126.5% 118.4% 125.7%
ラウンドオーバー 26.5% 18.4% 25.7%
利益期待値(控除率 21.0% 15.6% 20.5%

JRA 「利益期待値」は、ほぼ単勝控除率(20%)どおりの値を得られた。差異は丸め誤差だろう。固定オッズは JRA と差はない。これらに対して PMU のラウンドオーバー、「利益期待値」すなわち控除率がかなり低いのが分かる。上述のように小数点切り捨ての影響も含んでいるが、ここで気にするほどではないだろう。

これは日本でも JRA はセパレートプールで行なう海外競馬のサイマルキャスト販売では控除率を下げるべきだという指摘、議論があったが、PMU はフランス国内のレースより控除率を低めに設定しているのではなかろうか。このレースの実際の売り上げや、JRA にどの程度ライセンス料を支払っているのかも未確認だが。凱旋門賞JRA は売り上げの3パーセント前後を「手数料」として支払った模様(「その二」参照)。ジャパンカップ凱旋門賞ほどのバリューは無いだろうから、PMU に値切られちゃったりしているかもしれない。また、PMU「マーケット」においても、RaceBets から PMU のみならず JRA にも支払いが発生しているのかといった商流も不明。

(続く)

RaceBets.com:ネット時代の馬券販売と「グローバル化」その四.一/ Starting Price(出走最終賭け率)についてのことなど

2. ブックメーカー・ベッティング(Bookmaker Betting)(続き)

  • スポーツ情報サービス社(Sports Information Services Ltd.)

    イギリス、アイルランドの「トート・オペレーター」(上掲エントリ「その四」参照)に採用されている。にわか仕込みだが(苦笑)、イギリスの場外ブックメーカーに対して初めて衛星情報サービスの提供を行ない、サイマルキャスト環境実現の嚆矢(?)となった企業である。1986年設立。今年になって略称同じ SIS で、サテライト情報サービス社(Satellite Information Services Ltd.)から社名を変更した。

    映像配信の権利は主催者と契約した配信会社が独占し、主催者(ホスト・トラック)とて RaceBets などのブックメーカーと個別に配信契約は行なわないといったような事情もありそうだが、オッズ提供も含めたパッケージで RaceBets に「サテライト情報」を供給しているということだろう。音声中継から始まった事業は映像配信に発展し、さらには賭けに関する取引プロセスの環境を提供するしくみを構築している。

    SIS トレーディング・サービスは、ロンドン中心部の最先端の本部から、さまざまなスポーツイベントの領域のオッズを集積しています。当社は、完全にアウトソーシングされたトレーディングサービスを提供し、賭けオペレーターに価格と負債管理を提供します。
    ここでは SP のオッズ提供ということで、それなりの控除率への調整などを行ないつつ基本トータリゼーターで計算してるのではないかと想像したりしたのだが、こうした掛け金プールによる<計算>が、トート社の「独占」に抵触するということになるのか。控除率を下げられればトート社は勝負にならないが、そこになんらかの手段でオッズにちょこっと調整を加えて独自「アルゴリズム」とうたってしまえば抵触しない?。SP に限定した説明ではないが SIS は、
    スポーツデータを解釈し、当社の専門的な価格設定チームが高品質でリアルタイムの価格フィードを提供するために、PhD レベルの統計学者の専門チームにより業界をリードするアルゴリズムが開発された。
    としている。

    しかしそもそも SP とは SPRC(出走最終賭け率規制委員会)によるオッズではないのか(「その四」参照)。あるいは「独占権を持つ」トート社からの(孫)ライセンス(?)の可能性も?、とおもったりしたのだが、RaceBets「サポートセンター」の説明に、「賭けの表示がない場合、送金された賭けはトート・オッズで決済されます」とあった。ところがこのあたりの説明、当方の英語力に加え出馬表画面の絵などが無いこともあってよくわからない(苦笑)。原文引用する。

    UK, Ireland and United Arab Emirates

    For fixtures taking place in the UK, Ireland and the United Arab Emirates the Starting Price (SP) represents the odds prevailing on a horse in the on-course fixed-odds betting market at the time a race begins. RaceBets is basing its payouts for these countries on the Starting Prices determined by the Satellite Information Services Ltd. (SIS) in the UK. If no SP is returned settlement of bets will be based on the final betting shows transmitted by SIS. Where no betting shows are transmitted bets will be settled at Tote odds.

    • 1) ギャンブル禁止=ホスト・トラックが「トート・オペレーター」になることはあり得ない、アラブ首長国連邦分も SIS が提供。
      で、最初に SP の一般的な説明。
      イギリス、アイルランドアラブ首長国連邦で行われている出走最終賭け率(SP)は通例、レース開始時の場内固定オッズベッティング市場における、ある馬に対する支配的なオッズを表します。
    • 2) 次に RaceBets におけるこの扱いだが、
      RaceBets は、これらの国のためのその支払いを英国のサテライト情報サービス社(SIS)により決定される出走最終賭け率に基づいて行ないます。
      「通例」である SPRC による「支配的なオッズ」ではなく、SIS により決定される出走最終賭け率で「支払い」が行なわれる、と読めるのだが、支払いを行ないます、ではなく、「基づいて」行ないます、というのも引っ掛かる。というのも次のケースのときが SIS の最終ベッティングによるオッズだと断っているのである。が、これも同じ「 SIS により決定される出走最終賭け率」のことではないのか。
      SP が返されない場合、ベットの決済は、SIS によって送信された最終ベッティングの表示に基づいて行われます。
    • 3)「 SP が返されない場合」というのがどのようなケースで、「出走表」にどう表現されるのかも?なのだが、ベットが締め切られオッズが確定するまで「出馬表」の SP 各馬のオッズ欄が "SP" 表示のままになったりするのか。

      表示はどうあれ(また SPRC のオッズかどうかは別にして)1) の説明どおり、固定オッズの締め切り時最終オッズが SP だとおもっているのだが、SIS は 固定オッズ用と SP 用とで別々のオッズを提供したりしており、SP 用が提供されない(「返されない」)場合には固定オッズ用のオッズが用いられるというようなことを言っている?。上掲 SIS のサイトを改めて確認すると、「すべての主要レースのアンティポスト」「早期賭け率(Early Prices)」「ボード(表示)賭け率(Board Prices)」「出走最終賭け率(Starting Prices)」をカバーしている、として「出走最終賭け率」を明示している(が要するによくわからない(苦笑))。

      または、SPRC のオッズか「返されない」場合に(どうしてそうなるのかは知らないが)SIS による固定オッズの締め切り時最終オッズが適用される?。

      はたまた、SPRC によるオッズでの支払いにおいて、ベットを受け付けだしてから締め切りまでのいわば参考オッズ<表示>が SIS による固定オッズ、この状態のことを「 SP が返されない場合」と称している?(しかしここでオッズの<表示>ではなく「ベットの決済」と説明している)。

      なお「出走表」に SP とは別に表示される固定オッズは、SIS 提供ではなく RaceBets が設定したオッズである筈である(「その四」参照)。

    • 4) さらに SIS が対応していないレースでも、トート社が受け付けているレースであればトート社のオッズで RaceBets が賭けを受け付ける?。
      ベッティングの表示がない場合、ベットはトート・オッズで決済されます。
      このケースが 3) で書いた表示になるような気がするのだが、あるいは「ベッティングの表示がない場合」とは、「出走表」は提示されるが固定オッズも含めてオッズが何も「表示」されないことを言うのか(ただし固定オッズは上記のとおり RaceBets によるオッズ)。

      いずれにせよ賭けは受け付けるのだが、トート社が提供するオッズを見てくれ、ということか。この場合映像も配信されなかったりするのだろう。

    下記はクラックスマン Cracksman (GB) が勝利した今年のチャンピオンステークスの「出走表」と、レーシングポストのレース結果である。後者の SP(この SP は SPRC による公式オッズだろう)のオッズは RaceBets/SIS の SP のオッズ(ユーザー設定によりフラクショナル=分数表示に切替可能である)と全出走馬一致している。やはり 2) は「通例」どおり SPRC オッズなのか。 
  • SPRC(出走最終賭け率規制委員会、Starting Price Regulatory Commission)

    イギリスの名馬物語などにおける人気についての記述も、ブックメーカー名が明記されず単なる「発走時のオッズ」といった記載になっているのが長年疑問だったりしたのだが、この場内の(ざっくり言うと)平均値のことだったのだろう、たぶん。

    というか、「その四」で触れた2009年のレーシングポストの記事を再掲するが、

    SPRCの運営資金はSIS社(Satellite Information Services)とターフTV社(Turf TV)が拠出している。

    とある。RaceBets のいう「 SIS により決定される(determined by the Satellite Information Services Ltd. (SIS))」出走最終賭け率とは、SPRC による SP を SIS が配信しているということなのであろうか?(混乱)。

    と、よくわからないのだが、RaceBets に限らずイギリス、アイルランドにおいて、固定オッズを提供した上でさらに SP による賭けも受け付け、かつそれをシンプルにトート・オッズとしないのには、それなりの理由があるのだろう。後者では「トート・オペレーター」たるトート社の控除率を反映したオッズとなり RaceBets 側に裁量の余地はないのだが、さりとて SPRC による公式 SP で払い戻せば RaceBets 側の意向がオッズに反映できる訳ではないので、こちらもまた裁量の余地はない。要するにトートと SP との比較では(とりあえず固定オッズは置いといて)、SP の方がブックメーカーにも賭け参加者にも好まれている、ということなのだろう。(おそらく現状の英)トートにおける、

    [単複セットのイーチウェイでない]単勝のみのプールに適用されるマージンは、伝統的なブックメーカーが期待する約三倍である。複勝の控除はさらに高くなる。これは SP を押し下げるので、トート価格を取り入れることが、過度のオーバーラウンド *1 を生み出すという SP の批判者の懸念をいかに満足させるか見え難い。

    「協議会 | 出走最終賭け率規制委員会」と、要するにトートの方がブックメーカーは三倍儲かり、配当は押し下げられるとある。とはいえ SP については批判があるようで、2015年のグランドナショナルでの「高オーバーラウンド」が切っ掛けとなり SPRC で「 SP の将来について」の協議が行なわれたようである。上記引用はその際の「代替案」のひとつとしてのトートの説明。

(続く)


*1:Over-round については、下記 "bettingmarket.com" というサイトの記事に説明があった。

「『オーバーラウンドの理解(賭け市場の価格設定メカニズム)』(2015年)」冒頭に五頭立てのレースを例にした説明がある。各馬勝利の可能性は確率的には五分の一、20%である。そこで全馬に5倍のオッズを付け(各馬が平均して売れ)れば、売り上げ/配当 ∝ 5/5 = 1 = 100%、賭けの受け手はトントンである。このような賭けを「ラウンド」ブックという。しかし五頭全部に、四頭立てならトントンとなる4倍のオッズを付ければ、五頭立てにも関わらず各馬に四分の一、25%の勝利確率・リスクを見込んだことになり、五頭合計すると125%で25%の「オーバーラウンド」となる。このとき賭けの受け手は 25% / 125% = 20% で売り上げの20%の利益を期待できる(あるいは、売り上げ/配当 ∝ 5/4 = 1.25 = 125% で25%の「オーバーラウンド」、賭けの受け手側は売り上げの 1-4/5 = 0.2 = 20% の利益を期待できる)。